帳を押し開いた。世界が明けた。
私はぽっかり浮かんだまま、覚束無い足取りで歩き始める。よちよち。よちよち。よちよち。
地面に這い蹲る仔犬のようだね。ずいぶん前を歩く人はそう言って笑った。頑張って。部屋に戻ってきた人には優しく励まされた。
ぐんぐんぐんぐん背が伸びていくような感覚が全身を満たしている。私が前へ進むたびに、一歩踏み出すたびに、目の前がはっきりと明るくなっていく。
もう少しだね。先を歩く人は消えりそうな声で呟いた。そうだね。私は力強く頷き返す。頷き返して、さようならと口にして。
一人ぼっちになる。
おはよう。おやすみ。くり返しくり返し回り続けるたくさんの人たち。
朝だよ。私は目覚めたばかりのあなたに呼びかける。ずっとずっと、朝だよって、それだけを繰り返し言い続ける。