賃金の上昇は可処分所得の上昇につながり、工業製品の売り上げが期待できると強がっていたが、現地で少し生活すれば、賃金水準の上昇が可処分所得の上昇にならない基本的構造に気がつく筈であり、何も知らない投資家に説明する為の嘘でしかない。
都市戸籍と農村戸籍という二重戸籍制度をとっている中国においては、都市戸籍を取得・維持するには、都市に不動産を所有していなければならず、農村から出てきた農民工・盲流労働者は、身体を壊して田舎に帰るか、大金を掴んで都市戸籍を手に入れ、親や親類を呼び寄せて都市住民になるかの、二者択一しかない。
中国において土地バブルがすさまじい状態になっているのは、都市戸籍を手に入れる一番確実な手法が、不動産の取得であった為である。そして、一番確実に大金を掴む方法も、不動産屋になって土地や建物を転がす事であった。
農民工・盲流労働者の目的は、究極的には、都市戸籍である。都市戸籍さえ手にいれれば、低賃金の工場で働かなくても良い、楽な暮らしが出来ると、盲信しているとも言える。つまり、労働者が団結して賃上げを要求し始めた先には、都市戸籍を取得できるだけの不動産を買える金を寄越せという賃金改善になり、その先は、都市戸籍所有者ならばもっと楽な仕事につける筈だという待遇改善になる。
労働争議が発生して、賃金水準の上昇が予想されるという話に驚き、慌てて実地調査を始めたら、中国での生産は、二重戸籍制度による構造的問題に直面することに、ようやく気がついたという事である。
低賃金だからという話に飛びつき、本人は調べ尽くしたつもりなのだろうけど、大きな見落としのある調査で投資を始めてしまって、時間が経って見落としに気がついた、どうしよう。という、間抜けな話なのである。
この辺は、賃金を低く押さえられるから日本にも移民を入れようという主張に近い。移民も日本で暮らす以上、日本人並みの生活費がかかるし、時が経てば、日本人並みの賃金を要求するようになる。言葉を覚えさせるまでの手間や、成功した親戚にたかろうとして来るであろう祖国で役立たずと判断された家族・親戚といったリスクを考えれば、どう考えても割高になるのだが、そこまで考えが及ばないのである。表面に出てきている数値や条件だけが問題の構成要素で、その中だけで最適解を求めるというのは、学校教育でならば通用するが、不利な条件を隠して交渉を有利に進めようとする現実の世界では、通用しない。
http://www11.ocn.ne.jp/~ques/diary/diary.html
[2010.6.26]