2010-05-25

殺処分しないことの経済的合理性

口蹄疫感染した患畜感染の疑いがある疑似患畜は殺処分になる。家畜伝染病法に定められており、殺処分を拒否すると罰則がある。

その根拠は、経済的合理性。口蹄疫感染すると幼畜には重篤な症状が出て経済的損害が発生する。その被害を拡大させないために患畜のみならず疑似患畜まで殺処分する。被害拡大を防止するという観点から経済的合理性のある行為とされている。

殺処分には、もう一つ、口蹄疫清浄国であるという国全体が共有できるメリットがある。口蹄疫発生国の家畜、食肉等の輸入を制限できる。国内家畜にたいして口蹄疫蔓延を防ぐためにとることが許されている。

殺処分の経済的合理性は、この2点に集約される。ということは、この2点に経済合理性がなくなれば、殺処分は合理的な措置とはいえなくなる。実際、殺処分によって生じる被害と、口蹄疫による被害と清浄国としてのメリットを天秤にかけ、殺処分を選択しない国も存在する。途上国が多いが、中国清浄化をあきらめ、ワクチンによる予防をしているだけだ。その結果、中国では口蹄疫蔓延しているが、畜産が壊滅的な打撃を受けたという状態ではいない。

逆に、将来の輸出にこだわり全頭処分した国もある。イギリス台湾は無数の家畜を殺処分した。被害は国家財政に大きな影響を及ぼし、畜産業界は大打撃を受けている。台湾の養豚業界は未だに立ち直っていない。食肉の輸出以前に、産業としての畜産が崩壊寸前まで追い込まれた。

さて、問題の日本である。口蹄疫感染力が極めて強く、中国清浄化を放棄していることから、日本清浄国を維持し続けることは非常に困難である。それなのに、口蹄疫が発生する度に疑似患畜まで全頭殺処分していてはきりがないだろう。全頭処分はひとつ農家の息の根を止めるに等しい処分だ。イギリス台湾と同じ運命を辿ることとなろう。しかも、今回の宮崎県での発生は、既に封じ込めに失敗している。殺処分は全く進まないし、周囲に食肉加工場が2箇所しかなく処理が追いつかないのだから早期出荷も不可能だ。この状態では、おそらく来月には他県へ飛び火するだろう。もはや九州での蔓延は諦めるしかないだろう。

現行の家畜伝染病法を守り、口蹄疫清浄国を維持するという目標を掲げ続けるなら、現時点では「関門海峡を渡らせない」ということに力を注ぐしかない。まともな専門家であれば、もはや九州内に封じ込めるしかない、と考えるはずだ。発生地に至る道路の封鎖も検討されてしかるべきだろう。だが、そのような動きは今のところ見られず、感染は拡大し続けている。福岡県佐賀県鹿児島県熊本県に飛び火してからでは遅すぎるのだが、先周りした対策を取る様子もない。

殺処分が遅れたため、空気中にウイルス蔓延している。鹿や猪に感染するのも時間の問題だろう。野生動物感染したらもうおしまいだ。山狩をして野生生物を全滅させるしかない。そこまでできるのか。

残念ながら、対策がいずれも後手後手で、結局、口蹄疫日本中に蔓延するだろう。殺処分対象の患畜、疑似患畜天文学的な数になり、被害額は想像を絶するだろう。その時、立ち止まって考え直してくれるだろうか。その殺処分に本当に経済的合理性があるのか、和牛の輸出額など微々たるものだ、清浄国でなければならないという信仰を捨てることの方がが経済的合理性にかなうのではないか、と。清浄国でなければならないという信仰を捨てれば、殺処分はただの虐殺に過ぎないのだ。

口蹄疫は、人間には無害、経済的合理性ゆえの殺処分だということを忘れてはいけないと思う。

  • 経済合理性もさることながら、周囲の家畜を全頭処分してたら免疫的には虚弱化する一方なんですよ。 そうなるとさらに感染しやすくなって、次にはもっと殺さなくてはならなくなる。 ...

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