ところが、ひょんなことからヤクザになってしまった。厳密に言うと巻き込まれて抜け出せなくなった。どういう経緯だったかはもう忘れたけど。
自分としては望んでなったわけではないのだけど、簡単に辞めれるものではないし、腹括ってこのまま生きていくしかないかなという覚悟と、両親が自分に与えてくれた普通の人生に対する未練の入り混じった、不安定な感情を抱えていたのを覚えている。
ある時、親分、兄貴分、同期(?)、自分の4人で他の組との会合に行く。
最初はオネーチャンが出てきてゆるーい雰囲気だったが、暫くするといつの間にか女の子ははけて、強面の面子ばかりが並んだ堅い雰囲気になる。他の組の会合で出てくるのが経済関連の話ばかりで、大学で経済学を専攻した自分には問題なかったが、それでも少々退屈で眠くなる時もあった(絶対に眠れないけど)。自分でこれなのだから、これは暴力一筋で生きてきたバカがこの世界をのし上がっていくのは厳しいな。などと思っていた。
その後、他の組の子分が何かポカして、それにその組の親分が激昂して拳銃を頭に突きつける。その上、ロシアンルーレットまでさせる。弾が1発しか入っていないのもあり、彼は無事生還。顔面蒼白かつ放心状態の子分を見て、その親分と兄貴分がガハハと笑い、兄貴分が「(これで勘弁してやるんだから)ウチのオヤジは優しーんだよ。」と言った時は、その怒りの沸点の低さと暴力の身近さにインテリヤクザだ何だといっても本質は暴力なんだなーと強く思わされた。
そんな事もあり、これからこんな世界でずっと生きていかなくちゃいけないのか・・・と少々憂鬱な気分になるも、会合自体は無事にお開きとなり一同車に向かう。自分はウチの組の拳銃2丁を持って帰ろうとしたが、手ぶらで2丁は無理なので1丁を同期に渡す。自分の1丁はスーツの胸ポケに入れる。
で、車に向かう途中タイミングの悪いことに警察官の巡回。しかも最悪な事に同期が職質を受ける。
俺まで捕まるのはまずいなと自分は素知らぬ顔で車に向かうが残念ながら呼び止められる。警官とああだこうだとやってる内に完全に拳銃がばれそうになったので、拳銃を放り投げてその隙にダッシュで逃亡。
意外にもその場を撒くことは出来たのだが、そこら中に警察がウロウロしてる・・・完全に包囲網張られてます。
とりあえず自宅マンションに戻りエレベーターを閉めようとしたときに、誰かが割り込んで来た。ウゼーなこっちは急いでんだよ誰だこのオッサンと思って顔を見たらなんと古参の兄貴分。ここじゃマズいからと別のマンションの鍵を貰うが荷物を取りにとりあえず上の階に上がる。
自分の階の1つ下で止まる。マンションで上の階に行く事なんてないのに変だなと思ってたら、開いたドアの向こう側にいた男が突然拳銃をこちらに向ける。「え?口封じ?抗争?」と頭の中が混乱したのもつかの間、「1、2、3、4・・・12」と淡々と発砲数を数えながらガンガン自分の腹に撃ちこんでくる。不思議と痛みは感じなかったが、何かもう駄目だなという感覚が全身を覆い、立っていられなくなる。
よく死ぬ直前の震える描写があるが自分はそういった感覚はなく、上半身を中心に鈍くて痺れる様な熱さを感じた。単純な熱さとは違う何とも形容し難い感じだが、そして自分の内側からなにか熱いものが上というか天に向かって昇っていくような感覚を感じる。ああ、これが昇天ってやつか、確かに内側から昇っていく感じだななどと妙に冷静に考えていた。死の恐怖は全くなく、おれはこれからどうなるのだろう、あの世はどうなっているのだろう、向こうで母に逢えるかななどという好奇心の入り混じった穏やかな気分だった。
最後に思ったのは残される父親の事で、妻に先立たれ、子供が先立つだけでも十分不幸なのに、こんな死に方じゃ申し訳なさ過ぎるという悔恨だった。「お父さん、ごめんなさい」と父に伝えて欲しいと兄貴分へ言伝を残して最期の時を迎える。
・・・そして、目が覚めたらベッドの上だった。
腹の痛みはない、五体不自由な所もない、ここは自宅、そして俺は堅気の人間。
平穏な日常っていいなー。上記の出来事が夢で本当に良かった。
目覚めた時のあの安堵感。夢の割には良く出来たストーリー。そして死の直前のあの感覚があまりにも秀逸で感動したので書いてみました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。