今朝、事故った。
バイクで会社に出勤すると言うのは俺を憂鬱にさせる三つの事のうちの一つだ。ちなみに残りの二つは四輪車で会社に出勤する事と、近所のバス停から公共交通機関で会社に出勤する事である。
車を使わなかったのは愛車が修理中の為手元にあるのが代車だからだ、会社の駐車場は届け出が必要で代車の場合は守衛所に連絡しなければならない、怠ると忌々しいねちゃねちゃした警告ステッカーをべったり貼られるのだ。守衛所と駐車場はひどく離れていて……まあ要するに色々めんどくさい。
と、言うわけで、私はいつものように家の前に愛車のGSF1200を引っ張り出し、エンジンの暖気してタコメーターが安定するのを待ち、よっこらセとまたがってバイクを発進させた。
発進してすぐ事故は起きた。家から一つ目の丁字路で自転車が飛び出してきたのだ。とっさに両方のブレーキをフルに掛け回避行動をとる。間一髪でかわしたと思った次の瞬間私は地面とお友達になっていた。
痛ってーな、くそっ。
とりあえずバイクと地面との間に挟まれた足を抜き取り体の状態を確認した、挟まれた足に打撲がある程度でたいした怪我は無い、プロテクター入りのジャケットのおかげだろう。相手の方を確認とどうやら無事のように見える、落車もしてないところを見ると回避はうまくいったらしい。見たところ近所の高校の生徒の様だ。
「ごめんなさい、大丈夫ですか」と言う彼女に「大丈夫だ、そっちは」と答える。対向車が来なくてよかったと思いながらバイクを起こして状態を確認した。変な角度から地面にぶつかったのだろう、ハンドルが微妙に曲がりメーターケースが割れている。
『修理代は高く付きそうだ』と考えていると「じゃあ」と言って彼女は先へ行こうとする、「まてまて、これから警察呼ぶから勝手に行くな」とあわてて声をかけた。なんて奴だ、なにが「じゃあ」だ。自分には全く責任が無いとでも思っているのか?私は背負っていた鞄をおろして電話を探し始めた。
こけた拍子で中身がぐちゃぐちゃの鞄を漁る私に彼女泣きながら問う。
「事情を説明するだけですか?」
事故の状況を説明して、確認して、記録して、過失割合の提示をしてもらって、警察官の気分次第では油を絞られて、違反があれば切符をもらうんだよ。
そう、違反があれば切符を切られるのだ。彼女の自転車は直進しようとする私のバイクに左に伸びた丁字路の手前の角をかすめるように曲がってきて正対した、つまり右側通行をしており丁字路の優先関係うんぬん以前に違反は明らかだ、切符を切られる要件は満たしていると思われる。私は何か違反をしたつもりは無いが適当な理由で切符を切られる可能性はある、事故の責任が10:0と言う事はまず無い。
しかし、自転車に乗っていた彼女とバイクに乗っていた私とでは大きく異なる点がある。たとえ切符を切られても私は青切符で済むだろうが彼女の場合は赤切符となるのだ。
そのアンバランスさは普段は警官のお目こぼしによって調整されている、まあ運用による調整ってやつはこの件に限らず世の中しばしば有るもんだ。しかし事故の場合はどうだろう、事故の調査とは原因を確認して記録する事だ、この場合お目こぼしはあるのだろうか?
「しゃーない、ええわ」
愚かな判断だと思う。たとえ赤切符を切られたとしても未成年である彼女に前科はつかないだろう。しかし私はそれを酷くバランスが悪い事だと思った。
「但し、親にはちゃんと話す事。そして此処に連絡させなさい」と言い自分の名前と電話番号を書いたメモを渡す。
幸い道路の構造物に損傷は無く、私の怪我も大したことは無い。問題は壊れた俺のバイクのみでこれは彼女の親と交渉して過失割合を決めれば済む事だ、たぶんネットでも代表的な事例を調べられるだろう。
「はい」と泣きじゃくりながら彼女は返事をして去って行った。そして私は今月2回目の遅刻をして上司にどやされる羽目になった。
*付記*
結局これを書いている時点で彼女の両親からの連絡は無い、私は愚か者の上に間抜けだった。涙や状況に騙されてはいけない。事故に会ったら警察に連絡すること、自分と相手の為に。
だが、軽車両に青切符が無いことを変だという考えに変更は無い。
しかし痛いな、主に財布が。