TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」内のお悩み相談コーナーにて。
質問者の手紙「先日、友達と音楽観について話し合っていたら、ちょっと口論になってしまいました。
僕はヒップホップが大好きなので、自分なりにヒップホップの素晴らしさ・凄さについて熱弁していたのですが、
その友達に、『つーか、頭固くない?拘りすぎなんだよ。良い音楽にジャンルなんて関係ないだろ』と、
一見正論のような事を言われてしまい、反論しようにも頭に言葉が浮かばず、非常にモヤモヤした気持ちになってしまいました。
確かに素晴らしい音楽はどのジャンルにも見出せると思いますが、1つのジャンルに拘ることは、そんなに頭が固いことなんでしょうか?
その友達に何て反論してやったらいいですか?」
宇多丸「あのー、確かに、ありますよね。音楽はジャンルなんて関係ないみたいなね。それは確かに、
『良い音楽にジャンルなんて関係ない』、その言葉自体は、そりゃそうですよ。そりゃ正論ですよ。
だからその友達にはまず、『ああ、そりゃ確かに正論だ。だがつまらない!いちいち言うな、そんな当たり前のこと。
それを前提に話してんだ』ってところからですよね。で、僕は実際のところ、
ジャンルなんて関係ないっていうのを正論だと思いつつも、いわゆる『良いものは良い』みたいなのが僕は本当に嫌いで、
まー曲の中でも嫌味言ってる(1:18より)くらいですけど、あのー、『良いものは良い』ってさ、
自分は真っ当なこと言ってる風な顔で言う人いますけど、あのさ、何でそれが凄く嫌かっていうと、
例えば僕はアイドルソングが凄く好きだったりするじゃないですか。
で、あのーアイドルソングの中で僕が凄く好きだったり皆から評価されている曲っていうのがあるわけでしょ。
ところがさ、例えば僕の周りで、洋楽・・ラップとかさ、まあいわゆる"カッコいい音楽"を中心に聴いているような人は、
例えば平気でアイドル音楽とかのことを馬鹿にしたりするわけじゃないですか。
で、そういう人に限って『ジャンルは関係ない』とか言うわけ。お前ジャンル差別してんじゃねえか!っていうさ。
アイドルというジャンルの中の良さは、お前には理解できないものだったりするわけでしょと。
お前の理解できないジャンルだったり、理解できない良さっていうのはこの世の中にいっぱいあるんだよ、と。
で、そういうのを無視して、『良きゃ良くね?』って言うけど、『良きゃ』って言うけどお前の『良い』と
俺の『良い』は同じとは限らない訳だから、だから今そういう話とかしてるわけだろっていうさ。だから、
一般の人が眉をひそめるようなジャンルのコアな曲をそういう人に聴かせて、
『ホラ良い曲だろ、良い曲じゃねえのか?良いかこれ?・・・俺は良いけどね』みたいなさ。
そういう思考実験したら良いんじゃないですかね。僕はやっぱりそのーアイドルソングとか、
比較的差別を受けやすいジャンルを聴いているから、その『ジャンルは関係ない』『良いものは良い』っていう
言葉の欺瞞を凄く感じるんですよ。で、前はラップだってまさにそうだったんですよ。
『ラップなんて全部同じに聞こえるし、どこが良いのかわからない』みたいなことをずーっと言われ続けて、
凄い被差別ジャンルですよ。まして日本語ラップなんて、もうずーーっと馬鹿にされ続けてきたジャンルですよね。
やれ黒人の真似だ何だって。で、そういう人に『ジャンルなんて関係ないね』なんて言われると、何言ってけつかんだ、と。
うん。そういうのは、全てのジャンルの音楽に物凄く通じている人が、初めて言えよ。そういうことは。
お前のその狭ーい経験の範囲の中であたかも普遍的であるような言い方しないでくれるっていうさ。
だから先週に言った、『生理的に好き/嫌い』っていうさ、自分の中の価値基準が全部だと思っているような人が多すぎですよ。
世の中にはあなたの理解できないモノが、理解できない良さが、いっぱいあるんだよっていう。うーん。
という風に、そのお友達には言ってあげてください。」