2008-03-23

恋したプログラマー

高校2年の冬だった。もう5年も前。

初めて会ったその日にアドレスを交換して、3日後の夜、彼女と初めて電話をした。

話は尽きずに、でも電話料金を気にして、お互いかけ直しながら朝まで話した。

やっと巡り会えた気がした。小さい頃、母親の胸に抱かれていたような、そんな安らかな気持ちになることができて、

そのとき僕は運命を信じた。それは偶然じゃなくて、必然だと確信した。

その2日後、初めて会ってから5日後、学校が終わってから教室で暇をつぶして、

彼女部活が終わるという時間に、電車彼女学校の駅へ迎えに行った。

改札まで友達と一緒で、すごく元気でさばさばしていて、電話イメージとは違った子だった。

でも二人でボックス席に向かい合わせに座って、会話が止まった瞬間に、それが緊張のせいだとわかった。

自分の気持ちと彼女の気持ちが手に取るようにわかって、泣きそうになった。

彼女の住む駅は、店もほとんどない田舎だった。

公園に座って、僕は彼女の心を言い当てた。

「がんばり屋さんなんだね、強がってるのがすごいわかる」

彼女はそれまでの根拠のない強い眼差しを伏せて、泣いた。

「なんでそんなにわかるの?」

「わからない、なんかわかるんだ」

「友達にメールしてること言ったら、付き合ってるの?って言われたんだ」

「付き合ってるって、言えば?」

彼女はうなずいて、また泣いた。

帰らなければいけない時間になって、駅まで送ってくれた。

電車が来て、ドアが開いた。

僕は彼女に、キスをした。

人生で初めてのキスをした。

今でもそのときの彼女の顔は覚えている。

思いつく限りの種類の感情を想像してほしい。

愛情、不安、興奮、焦燥、、その全部を一気に表現したら、あの顔になるんじゃないかと思う。

それから2年半後に別れるまで、いろんなものを二人で見て、二人で聞いて、二人で感じた。

学校もさぼったし、親に嘘をついて旅行に行ったりもした。

僕が”恋”から連想するのは、いつもあの淡い時間だ。

今は別の人と付き合っていて、もうすぐ1年半がたつ。

心苦しいけど、僕はまだあの時の彼女に恋をしている。

あのときの彼女は、きっと幸せに暮らしているだろう。

そして僕と同じか、それ以上に、僕のことを思い出して、甘く切ない気持ちになっているだろう。

ただ彼女は、もう僕を求めたりしないだろう。

女の人は、思い出を作るのがうまいと思う。

僕は未だに、現実世界へと漏れだしてきてしまう過去から逃れられない。

こんなんじゃ、いまの彼女幸せにできないと思っても、好きという気持ちは嘘ではないから

いつか思い出になってくれることを待ちながら、卑怯にもいまの彼女を愛している。

プログラマーという仕事は、感情の世界から、論理世界へと僕を隔離してくれる。

論理的に考える訓練をすると、自分の感情が持つ醜さや幼さを合理的に回避して解釈できるようになる。

心ではわかっていることを、頭で考え直して納得する。

それが結局は、僕から流れ出す不幸を最小限に食い止めている。

僕は画家小説家にならなくて良かったと思う。

心で自分と向き合ったら、誰も幸せにできないだろうから。

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