2008-02-13

Bの場合

Bは気付かなかった。先週のはじめくらいから制服が汚れてきていることが気になっていたBは金曜日クリーニングに出し日曜日に取ってきた。Bは大雑把な性格であったので月曜日の朝までそのまま放置して、月曜日の朝に慌ててハンガーから取りタグを外し制服を着てカーディガン羽織コートを持ってそのまま駆け足で学校へ向かった。だから気付かなかった。襟につけっぱなしにしておいたいじめバッジが外れていることに。

「B?バッジはどうした?」最初は教師の言葉が理解できなかった。バッジなら貰ったときからずっとつけっぱなしにしているはずだ。そう思って襟を見てみると何もついていなかった。「あれ?あれあれ?」Bの頭は真っ白になった。何で?どうして?バッジがないの?あれ?あれあれ?元々成績が良い方ではない頭をフル回転させた。だから返事をする余裕がなかったのだ。教師の「B、もしかしていじめられているのか?」という声に。

数秒後、Bはようやく制服クリーニングに出していたことを思い出し、そこでバッジが外れただろうことに思い至った。「先週クリーニングに出したんで、つけてくるの忘れちゃいました。えへ。」そう明るく言ったBは教室の空気がおかしなことに気がついた。Bは元来いじられキャラだった。だからドジをすることは度々だし、ドジを披露するといつも笑いが起こった。それなのに今の教室の空気は全く違っていた。何とも言えない奇妙空気が流れているだけだった。Bが不思議がっていると教師は言い辛そうに口を開いた。「B、本当に忘れただけなのか?」疑いながらも再確認するような言葉だった。「いやだなあ、ただ忘れただけですって。本当、本当。」明るさが足りないのかと思い、いつも以上に明るく言ったのだが教室の空気は更に奇妙なものになっていた。「…そうか。…それならいいが。…もしいじめられてるなら先生に言うんだぞ?」念を押すように言う教師を訝しがりながらも「はーい。」と返事をしてBは座った。

教師が職員室へ行き1時間目が始まるまでの間、Bはいつものように仲の良い友達グループのところに向かった。「なんか先生今日変だったねー。」先ほどのことを思い出しながらBは話しかけた。「…そうだね。」いつもならば、Bをいじって盛り上げてくれる友人達は、バツが悪そうに、腫れ物を触るようにBに接した。Bは奇妙に思い「どうしたの?」と問うが返事はどれも曖昧で要領を得ない。チャイムが鳴ったので席へ戻ったBはわけがわからないので首を傾げた。その後の休み時間に行っても対応は変わらず相変わらず腫れ物に触るように、できれば話しかけて欲しくないように、柔らかな拒絶をされ続けた。Bは自分が何かをしたのかと思い、授業中もずっと頭をフル回転させ続けたのだが、結局わからなかった。放課後になり、業を煮やしたBは直接聞くことにした。「ねえ、あたし何かした?教えてよ!ちゃんと直すからさ!」必死の思いで訴えるBに友人達はバツが悪そうに口を開いた。「ごめんね。あたし達Bのこといじめてるつもりなんてなかったんだ。ただいじってただけのつもりだったんだけど…でも、ごめんね。本人が嫌ならいじめなんだよね。もうしないから。」「え?何のこと?どういうこと?」Bはわけがわからなかった。「ごめんね、もうしないから。」そう言って友人達は去っていった。言われたこともそうだったが、初めて見る申し訳なさそうな友人達の顔に途惑いを隠せなかったBはそのまま見送ることしかできなかった。

その日Bは家に帰って考えた。友人達の発言の意味と原因を。先週は別に普通だった。何か起こったとしたら今日。それも1時間目の前からおかしかったんだからその前だ。そうしてBはようやく思い出した。バッジのことを考えてるときに先生の「B、もしかしていじめられているのか?」という問いに返事をしなかったことを。バッジを忘れた生徒がそう問われて10秒近く返事をしなかったら、いじめを受けているのに言い出せない生徒のように見えるかもしれない。その後の明るい答えもそれを隠そうと努めているように見えてしまうかもしれない。そう考えればその後の先生の対応も、友人達の対応も合点がいく。いじられているだけなのに、いじめだと私が感じていると友人達は思ってしまったんだ。

その後Bは友人達に事の経緯を話したが効果はなかった。一度できた疑念は簡単には拭えないし、あり得ないことでもない。自分たちとしてはいじっているだけなのにいじめだと告発されたら堪らない。内申にも響いてしまう。だからわかったとは言ってくれたものの、Bに接するときは余所余所しく、必要最低限クラスメイトに接する対応そのものだった。それは他のクラスメイトもそうだった。Bが友人グループと仲が良く、適度ないじられキャラだと知っていた人は皆、Bに関わるといじめ犯人にされかねないと距離を置いたから。あんな軽く悪意のない、いじりでいじめにされたんじゃ堪ったもんじゃないと、腫れ物を触るように、そして無視などもせず必要最低限の対応で、Bに接した。Bはバッジをつけ続けた。いじめではないし、そもそもの原因を招いたのは自分なのだからと、その後はバッジをつけ忘れることなく、つけ続けた。

Aの場合
http://anond.hatelabo.jp/20080213144729

記事への反応 -
  • Aは悩んでいた。バッジを外すか外さないかを。先日学校からいじめバッジというのが全生徒と全職員に配られた。それをつけている者はいじめをしませんという証であり、それをつけて...

  • それはほんのちょっとしたいたずらだった。まさかそんなことになるとは、Cは夢にも思っていなかった。 先日学校からいじめバッジというのが全生徒と全職員に配られた。それをつけて...

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