生まれ故郷の南部に戻るとき、スティーブン・キングはキングではなく××という姓を名乗る。
今では知っている人も少ないが、キングはあのゴシック・ホラーの大文豪××の親戚なのである。スティーブン・キングの名はいまや世界で最も強力な一つのブランドである。××の作品を読んだことのある人間よりもキングの小説を買ったことがある人間の数の方が圧倒的多数だろう。しかし故郷での彼は世界一有名なホラー作家であることより××の眷属とみなされることを好む。それが「故郷へ帰る」ということなのであろう。
南部ではキングは崇拝されている。もはや聖人に近いといっても過言ではない。「ある日曜日」と南部の人々のあいだでは噂される。「貧しい母子が暮らすあばら屋に突如キングとその三人の弟子たちが姿を現した。朝食のオートミールと牛乳を食べたあと、キングと弟子たちは2000ドルを払い、立ち去った。去る間際にキングは母親にこう言い残した。『あなたのお子さんの病気は明日の日没までには治るでしょう』と」
これではまるでキリストのようではないか。しかし南部の人々の信仰深さゆえか、この話には非聖人的な続きが用意されている。「キングと弟子たちが出て行ったあと、母親は怒りだした。『なんだい突然訪ねてきて朝飯をくれだなんて。乞食も同然だよ。子供が今腹をすかして泣いているってのに、こんな金が何の役に立つっていうんだい? 病気なんてただの風邪なんだから、明日の夜には勝手に治るに決まってるよ。まったく、あの小説家という連中ときたら、ろくなものじゃない!」
という夢を見た。