少し前、詐欺の被害にあいそうになりました。
てくてくと帰宅途中、乗用車がすぅと近づいてきて、助手席の男から呼び止められたのです。
「すみません、ちょっといいですか。」
道を尋ねてくるかと思ったら、違いました。
「今日展示会があったのですが、一寸商品が余ってしまったので見てください。」
「怪しい者ではありません、こういう会社に勤めていまして。」
名刺まで見せてくれます。
「このまま会社に帰ると怒られてしまいますので、貰って頂けませんか。」
なかなか丁重な言葉遣いです。
「本当は40万円ほどするんですけど、これもご縁ですし、どうぞどうぞ。」
物腰も柔らかく如才無いので、思わず手に取ってしまいました。
でも腕時計をする習慣は無いし、第一自分は格好いい系よりはむしろかわいい系なので高級腕時計が似合うとも思えません。言わば猫に小判です。
「ただあの、飲み代くらい頂ければ結構ですので」
飲み代というと数千円から1万円くらい出せばいいのかなぁと思いつつ、本当に使うかどうかわからないのでまぁいいですと言うと、窓を閉めて行ってしまいました。
変なことがあるものだと思ってしばらく心に引っかかっていたのですが、ふと思い立ってネットで検索してみたところ、詐欺の一種でした。「時計詐欺」「時計あげる詐欺」などと言うそうです。
つらつら考えてみると、種々の点でとても良くできたシナリオです。
1)40万円という「定価」が最初に提示されているので、出さなければいけない金額はほんの少しに思えてしまいます。
2)しかも、こちらから出す金額については「飲み代」という幅のあるものなので、具体的な金額を相手から言われるよりは自分で決めたかのように錯覚します。
3)「助けてください」というメッセージも込められているので、あたかも善行を施しているかのように思えてきます。
さらにディテールまで考えると、
4)きっちりとしたスーツを着こなしており、なるほど展示会帰りなのだろうと思われました。
6)お金のことは後出しです。「これあげる」と言われると手に取ってしまいます。
7)「展示会」用だったのですから、本人が使用していたなどの中古品ではない筈です。新品に決まっているというメッセージも込められているようです。
…時計に興味があったら引っかかっていたことでしょう。僥倖とばかり1万円は差出していたかもしれません。
このような手法は、最初に思いついた人から連綿と受け継がれ、磨かれてきたのでしょう。恐らくシナリオのヴァリエーションも相当数あり、自分なりの工夫を加えながら、より成功率の高い方法が編み出されてきたに違いありません。
人の知恵なるものの豊かさに感服してしまいました。
俺もそれ遭遇したことあるよ。 俺の時はもっと巧妙で時計を見せる前に「展示会なんだけど」と言いつつ書類をチラリと見せてその書類に「14.0000」みたいな値段が書いてあった。 最初か...
まだいるんだなあ、時計詐欺。 ずいぶん昔に遭ったことがある。がそのときすでに時計詐欺の存在を知っていたので冷静に対応できた。 「でーあのう、飲み代を」と言われたときは、あ...