2007-12-25

カウントダウン

祖母が痴呆症になった。

もっと身近な言葉で言うとボケた。

ボケって言うと「夕飯はまだかねぇ?」「さっき食べたじゃありませんか」的な物だと思っていたけど

なんか全然違った。違いすぎたから気付かなかった。僕も家族もみんなみんな気付かなかった。

ある日、家の前に誰かがいると言い出した。

不安に思った母は父と僕に外を見てきてと言った。

すこしビビリながらも見に行ったけれど誰も居ない。気配も無い。

そんなことが何度か続くと祖母の発言はすべて「気のせい」で始末されるようになった。

それでも祖母は不安げな顔で誰か居る、誰か居るといい続けていた。

気付けるはずの「芽」は他にもあった。

あそこにしまってあったあれがない、盗まれた、と騒いだり

昨晩の電話は誰からだった?とかかってもいない電話の相手を知りたがったり

それでも僕も母も父も気にも留めてなかった。今思えば気付かないほうが不思議なのに。

そんなある日、祖母が風呂に入ると言い出した。

真昼間、午後2時ごろの事。

いつもは夕食を食べた後に風呂に入る祖母がおかしな事を言うな、とは思ったものの

寒い日だったので湯船に浸かって温まりたいもかもしれないなんて呑気な気持ちでOKした。

けれどもちろん風呂など沸かしていない。

それを告げると祖母は自分で準備するから大丈夫だと意気揚々と浴室に向かっていった。

それから数十分経っただろうか。

そういえば祖母はどうしただろう。

ふと気になってトイレに行くついでに浴室のほうへ向かうと祖母は風呂桶に向かってぼんやりと立っていた。

「どうしたの?」

「ガスがね、つかないんだよ」

故障か?そう思って祖母のほうに駆け寄って風呂を見る。

元栓すら捻られていない給湯器を見て僕は唖然とした。

何年も触ってきた給湯器の使い方を祖母はすっかり忘れてしまっていた。

「おばあちゃん、僕が治しておくからこたつに入って待ってて」

僕はそれを言うのが精一杯だった。

祖母は、男の子は頼りになるねぇと言って茶の間に向かっていった。

じっとからっぽの風呂釜を見ていたら理由はわからないけど涙が馬鹿みたいに出てきた。

ゆっくりとでも確実に祖母はボケて行って、今では一日中ぼんやりと座っているだけになってしまった。

かと思えば突然しゃきしゃきと掃除なんかを始めたりする。

動くと当然トラブルも起こる。だって記憶どんどん消えていってしまうのだから。

僕は祖母が好きで、(共働きだった両親がいない時間はいつも祖母と過ごしていたから)

でも祖母の異変に気付けなかった。

母は祖母のいない場所で露骨に嫌味を言うようになった。

父はそれを知っていて知らないことにしている。

祖母はどんどん小さくなっていく。

どんどんどんどん小さくなっていく。

僕はそれを止めることが出来ない。

祖母は「体と言う入れ物」と「魂と言う中身」が別々になってしまっているみたいだ。

それがいつか完全に別々になってしまうのじゃないかとふと思った。

たとえ肉体がまだ生きていたとしても、祖母の記憶が消えてしまったら

それはある意味ではその人の死なんじゃないだろうか。

突然カウントダウンが始まったみたいで、ただ悲しい。

  • 俺のばあちゃんもボケたよ。 おじさんだれ?っていわれた。高校の時な。 ばあちゃんにおじさん呼ばわりされるとは・・・ってショックだった。

  • カウントダウンじゃないよ。 命のバトンなんだよ。 そのぶん君がおおきくなればいいんだよ。 君がそのぶんだれかを大きくそだてればいいんだよ。 にゃー。

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      • これなら我輩も読めるにゃん http://anond.hatelabo.jp/20071203141915

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