2010-12-29

片思い未満

2年半前、彼女会社にやって来た。そして、僕の下に付いて一緒に研究開発業務を担当することになった。

彼女は僕より10歳近くも年下で、タバコを吸っていて、そして長年付き合っている彼氏がいた。だから僕は恋愛感情を抱くはずもなく、仕事を教えたり一緒に作業したりしながら、普通に先輩として接した

派遣社員は入れ替わりが激しい。何人も僕の後輩として入って来て、そして辞めて行った。彼女もまた、いつか僕より先に辞めて行くのだろうと、ぼんやりと思っていた。

初めこそ頼り無かった彼女だが、持ち前の頑張りですぐに自ら進んでてきぱきと仕事をこなせるようになった。やがて僕の直下から離れて自分テーマを与えられるようになった彼女は、助手から仕事仲間になった。彼女はよく僕に相談した。時には一緒に愚痴を言い合ったりもした。当時仕事を辞めようかと悩んでいたが、彼女に頼られることで僕自身もずいぶん救われていた。

彼女の成長は著しく、3年目に入る頃には工場や取引先とも率先して交渉して段取りを纏められるようになった。そういうのが苦手な僕よりもはるかに上手で、僕は彼女を見るのが眩しかった。娘の成長を見守る親の気持ちってこんなのかな、と思った。

12月に入ってすぐ、上司彼女と僕を飲みに誘った。その前に大きなイベントがいくつかあったので、お疲れ様の会みたいなものだろうと思っていた。彼女の家庭のこと、彼氏のこと、彼女が周囲をどう見ているのかなど、それまで聞いたことの無かった話をいろいろ聞いた。見た目もあって子供っぽいと思っていたが、人間関係自分人生も冷静に見ていて、ずいぶん大人だなと思った。別の女性ライバル視していて「今年は勝てる最後のチャンスなので勝ちに行く」と宣言したのは意外だった。鈍感な僕は、まだ何も気付いていなかった。

中旬差し掛かった頃、彼女が今月いっぱいで辞めて半年後には結婚すると聞かされた。寝耳に水だった。既に彼女がそこに居るのが当たり前になっていたので、なかなか実感が湧かなかった。それから2週間、年末の慌ただしさもあって、詳しい話は訊けないまま過ぎていった。ただ、これまで何度も経験したよりもずっと淋しかった。

残り2日の今日、突然仕事中に涙が浮かんできた。気を紛らわせようと、必死で仕事に集中しようとした。この期に及んで初めて、僕は彼女が好きだったことに気がついた。まったく、鈍感にもほどがある。初めて会ったときからのような気もするし、仲間として認識し始めた頃からのような気もする。まあ、気付いたところで初めから行き場のない気持ちではあったのだが

明日は最終日。みっともないところは見せられない。ていうか客観的に見てキモい。だから、いつものようにニコニコしている先輩として見送るために、今夜だけ泣いておくことにする。そして、心から「お幸せに」と言おうと思う。

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