昼過ぎ、2階の自室でボケッとネットサーフィン(死語)してたら、不意に車の急ブレーキの音と「ガシャン!」という音が。
窓の外を見ると俺の家の玄関前で軽自動車と自転車の接触事故が起こったようだった。中学生か高校生らしい二人組の男子生徒が脛を抱えて道路の真ん中にうずくまっている。
俺はすぐさま携帯電話で119番に通報。そして110番にも通報した。
家を出て様子を見に行くと、どうやら自転車は二人乗りだったらしい。中学生にしてはやたらと長い髪型からして、あまり真面目な生徒ではないようだ。
平日の昼間に住宅地の中を自転車で二人乗りしてる時点で普段の素行の程も知れる。
軽自動車に乗っていたのはごく普通のおばちゃんだった。しきりに悪ガキ二人を心配しているが、肝心の悪ガキ二人は「大丈夫だから」「もう痛くない」と繰り返してそそくさとその場から離れようとしていた。
冗談じゃない。
思わず俺は彼らに割って入り、悪ガキ二人に今すぐに救急車に乗って病院で検査を受け、保護者に連絡を取れと迫った。
二人はさんざん抵抗したが、渋々携帯電話を取りだしてそれぞれの母親に連絡を取り始めた。
救急車が到着した。
二人は乗車をかたくなに拒否したが、集まってきた近隣住民が口々に乗りなさいと言い始めたので悪態をつきながらも乗り込み、救急車はサイレンを数秒だけ鳴らして2kmほど離れた総合病院へと走り去っていった。
その後警官がバイクで現れ、軽自動車のおばちゃんへの聴取が終わった頃、悪ガキ二人のうちの一人の母親が現場に現れた。
息子はどこかと尋ねられ、病院名と大まかな場所を伝えると、母親は信じられない事を俺に言ってのけた。
「息子に余計な事をさせないでください!」
さすがにこれには俺のみならず、軽自動車のおばちゃんも近隣住民も驚いた。
母親曰く、悪ガキが電話した際、すぐに家に戻ってこいと厳命していたらしい。
「あなた、我が子が車にはねられたのに病院に行かせないつもりですか。」
「行かせないとは言ってないでしょ。行かせる必要もないのに無理矢理行かせた事に怒っているだけです。」
「必要がないとどうして分かるんです?」
「電話で本人がそう言っていました。」
「車とぶつかった際に頭を打っているみたいだし、骨も折れてはいなくともひびが入っている可能性もある。医者じゃなければ大丈夫かどうかは分からないでしょう?」
と、こんなやりとりを5分かそこら続けていたわけだが、次第にこっちも疲れてきたので、
「とにかく息子さんの所に行ってあげてください。」
と切り上げようとしたら、「私は息子に病院に行けと言った覚えはありません。だからあなたに迎えに行けと言われる義理はありません。息子は勝手に帰ってくるでしょう。」とまで言い出す始末。
もう何がなんだか…。
ここで俺なら「じゃあ勝手にしろ!後は知らん!」と吐き捨てて家に引っ込む所だが、近隣住民(のおばちゃん達)は違った。
母親を取り囲んでの大説教大会である。それは、加害者であるはずの軽自動車のおばちゃんがいたたまれなくなる程に苛烈なものだった。
もう出る幕じゃないと悟った俺はそそくさと自室に戻り、ヘッドホンを引き出しから引っ張り出して装着し、音量を最大近くまで引き上げてニコニコ動画を開いていた。