昔の話。
春、それはとても良い天気の午後で、
僕は久しぶりに遠出をしており、一人で千葉県の橋の上を歩いていた。
その頃は作家になるとかよくわからないことを言ってひきこもって、たまにギャンブルへ出かける毎日だった。
ひとり暮らしだがバイトもせず、仕送りで生活し、だらだらと堕落した生活を送っていた。
それが、この天気のいい日、中退した大学に復学しようと突然橋の上で決心をした。
・・・うん、まだ遅くはない。まだ22だ。これから大学へ復学をしたら卒業は25才になるけど、
どこか就職はできるだろう。まだやり直せるはずなんだ。
「あのさ、前メールで送ってもらった復学の話だけど、」
母親は僕のこの発言で、ほっとしてくれると思った。
いつもしつこくかかってくる母の電話を僕は煩わしがり、
ほぼ受話器は取らない。最近、中退した大学でも復学できる情報を、
母が何度かメールをよこしてきていた。
母の声は、予想外に重かった。
「何?どうしたの?」
「大学の復学だけど、俺やっぱりもう一度大学出て、ちゃんと就職したいんやけど 」
と、はっきりと言えた。温かい母の返答を期待したが、それは逆だった。
「なんで早く言わないの?!もう、時期過ぎてるから!」
時期が過ぎてる?!
「3月●日までに言わないと、復学できないのよ!なんであんなにメールしたのに、
電話もしたのに出ないの!?」
「知らねえよ!大事な日付ならもっとメールで何回もおくれよ!」
「なんでよ、電話もなんで出ないのよ・・・」
母は泣き始めた。
そして、僕も涙が出てきた。
「どーすんだよ!もう一回大学へ確認してくれよ!」
僕はそう言い、涙がぽろぽろ流れた。
ここ最近、家の中で人にも会わず、感情を出す必要のない日々だった。
涙なんてどれくらいぶりか。
母も受話器ごしに泣いているのがわかる。そうして電話は切れた。
もしかしたら、大学に問い合わせてくれてるのかもしれない。
それはとても天気の良い3月の終わりで、ここがどこの橋かわからないけど、
川に反射する光がきらきら、やたらきらきらしてるから、僕の身に起きている出来事も、
なんだか悲惨なのかよくわからなくなってきた。
「もういいや、もういいや」
そう言って僕はうぉんうぉんと橋の上で大泣きをした。
謝りたくて謝れない最低な自分だとか、
いろんな感情が爆発してひたすら泣いた。
僕の脱出は、見事に失敗してしまった。