以下、『アイドルという人生(オルタブックス4)』のリリー・フランキー氏の文章より、引用。
===================
これは91年3月号の『BOMB!』誌上において、当時二十歳を迎えたばかりの酒井法子が語ったものである。
「アイドルが恋愛しちゃいけないとは思いませんけど、ファンの夢は壊れるでしょうね。ファンの方たちはアイドルを恋人のように思ってくれて、またアイドルって『それだけ』って気もするし……。(中略)古くさいようですが、私は結婚相手が初めての人のほうが自分の中でこう……一途な気持ちになれると思うんですね。『結婚するまで女性は処女を守るべき』という考えはとくにないですけど、一生、その男性と一緒にいるのなら、そのほうが幸福なんじゃないかなって気がします」
前述したように、その頃アイドルは永遠の処女という偶像を拒否し始めた時代だった。その風潮を察してか、のりピーは誰も聞きもしないのに自らを”処女”と公言したのだ。
勇気のいる発言だ。何言ってんのこの人? 同業者はそう思うかもしれない。ライターは涙でメモが取れなかったかもしれない。
私は思った。この人は自分のことではなく、全アイドルファンのために自らを人柱にしてこう告げたかったのだと。
”アイドル・イズ・ノット・デッド・なんだピー”
さすが、子供の頃から”いつまでも子供でいたい”と背が伸びないようにカルシウムを口にしなかった本物のアイドル・のりピーである。
私はこの発言を期にアイドルを純粋培養して評価することをやめた。いや、女性全体に対してそれを求めることをやめた。
この言葉だけで生きていける。いや、それは大げさだが、私がのりピーの言葉から学んだことはこうだ。
実際にのりピーがそうなのかはわからない。事実は誰にもわからないのだ。しかし、大切なのは真実だということ。彼女がこの時、こう言いたかったという真実を信じたい。
アイドルと私たちの間に必要なのはイマジネーションから導き出される真実だ。事実じゃない。そう思えば、アイドルが何を言おうと、何をしようと、どう変わっていこうとも平気なのだ。アイドルは死なない。
自分の好きなアイドルがどんなにか落ちぶれ果てて、燃えカスの人生をただ生きたとしても、あん時にあれだけ燃えていた自分がいた真実を誇りに思って、生きてゆくべきだ。
===================
今回の「事件」にからめて自分の文章を付け加えようと思ったけど、やめた。
98年1月に書かれたこの文章に真実はあるから。そこに何かを足したら不純物を加えてしまうことになってしまう。
ただ、文中の「同業者」とは山瀬まみを、「ライター」は若い頃のリリー氏を想像して読むと、より鮮明に場面が浮かぶのではないか。