2009-06-16

 ユーロポンドの暗闘。

 ロンドンのシティは、欧州金融センターとして機能している。しかし、イギリスユーロに加盟していない。このねじれは、事あるごとにトラブルを発生させる。ユーロの実現も、シティから金融センターとしての実権を欧州大陸に取り戻そうという狙いがあった。フランス単独では無理であるし、ドイツ現場仕事は任せられるが、利益の為なら祖国でも売り飛ばすというお金世界で切った張ったをやるには、機転が期待できない。その他の国家フランスを小規模にしたような物で、フランスが無理な以上、望みは無い。

 そういう状況で、ライミーとカエル野郎喧嘩は、欧州統一という建前を推し進める結果へと繋がった。

 EU統合で、アメリカに対するカウンターパワーとなりえる存在であるとイメージ作りに成功したEUは、グローバリゼーションのおかげで貿易黒字を貯めこんだ地下資源国や新興工業国にユーロが買われ、しかも、高利回りのCDS投資好景気を享受し、このままいけば、シティから金融の実権を取りあげるのも時間の問題となったが、今度は、欧州金融センターをどこに置くかで内部抗争が始まってしまった。

 グローバリゼーションが打ち切られ、金融危機が押し寄せると、我が国こそ欧州金融センターを置くにふさわしいと名乗りをあげていた所が、次々とそれどころではない状態に陥った。最後に残ったのはフランスである。

 欧州金融センターフランスに置くという話は決まったが、ここで、どうやってシティから実権を奪うのかという問題が表面化してきた。バブルが膨らんでいた時代であれば、取引高の実績によって、マーケットは移動させられたが、バブルが弾け飛んで、官製相場となっている現状では、板は薄く、不自然PKO(Price Keep Operation)で価格だけが浮き上がっている状態になっている。

 流動性で実権を奪い取る事ができない以上、政策的に奪い取らなければならない。規制監督権を英国政府からEUに移動するという手段である。

 その際に問題になるのが、その決議を、多数決にするか全会一致にするかという問題である。

 イギリスユーロは導入していないが、EUには加盟している。したがって、EUの決定事項には従わざるを得ない。そこで、欧州金融センターフランスに移動させるという議案が出てきた時に、イギリスのみが不賛成で、残りが賛成するという状況が発生する可能性が出てきている。

 つまり、イギリスは、いつ破綻してもおかしくないほど借金を背負っているEU諸国と絶縁して、EUから脱退する可能性が出てきてしまうのである。

 同様な事は、1965年に、農業に関して、多数決によってフランスにとって不利な決議が成立しうる状況が発生した事がある。この時、フランスは全職員を引き上げ、理事会を欠席した。フランス抜きではEU空中分解するので、およそ半年後に、ルクセンブルグで、国益に関する議案は全会一致制度を適用するという合意を作って、フランスをテーブルに戻した。この妥協を"Luxembourg Compromise"と言う。

 イギリスEUから脱退し、血も涙も無い他人として欧州諸国の借金の取り立てに回るのであれば、EU経済的に破綻する。破綻を先延ばしにする為に、シティをEU側に取り込んでおく必要があり、単純に泣きつくと足元を見られるから、恫喝を仕掛けて相手に切り札を切らせ、恫喝を引き下げる事で、切り札を無効化するというプランなのかもしれない。

 ポンドは、昔、ケーブルと呼ばれていた。大西洋に張られた海底ケーブルで為替レートがアメリカに送られていた為である。その俗称を、あえて使う。金融監督権限に触るのは、ユーロにとって、ケーブルが救援ケーブルになるか、首吊りケーブルになるかという、危険な遊びなのである。

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