「すまん……何だって?」
「『ガチムチ』でごわす『ガチムチ』! いわゆるひとつの燃え要素!」
いや、ハルヒ、俺にはもうお前が何を言ってるのかさっぱりだ。
「基本的に――でごわすな、何かおかしな事件が起こるような物語には、こういうガッチリでムッチリとしたパワーキャラっぽい人間が1人はいるものなのでごわす!
おんしも見たことあるでごわしょう? カレー好きのガッチリムッチリキャラ!」
いや……どこからツッコめばいいものやら。
それはアレか、力士のあの体の下はああ見えて八割方筋肉であるというにわかには信じがたい話を反映しているのだろうか。
つかハルヒの言葉を用いるなら、これはムッチリムッチリだと思うのは俺の認識不足なのだろうか、そうであると思いたい。
「それだけじゃないんでごわす!」
思考の谷底に落ち込みかけた俺を引き戻すかのような、ハルヒの自慢げな笑み。
その笑顔のまま、奴は朝比奈にくるさんなる上級生の背後に回り、後ろからいきなり抱きついた。
「わひゃあああああああ」
そしてハルヒ、悲鳴お構いなしにセーラー服の上から胸をわしづかみ。
たぷん。
「ひいぃやああぁぁっあっ、あ、あっ!!」「ガッチリムッチリの印象が強いというのに!」「ういぃぃゃぁぁっ、うあぅ、あわっ!」「それと同時に女の武器たる胸もこんなに大きいのでごわす!! 巨乳というのは現在においても最大級の派閥を持つ萌え要素の1つなのでごわす!」さっきの“もえ”と今の“もえ”は何か違うのか、そこを明確に説明しろ。「わぅあっ、ひぃいぃあわぅんっ、ひゃぁあうっ!」「ガチムチの逞しいイメージと巨乳のか弱いイメージ、この壮大なる二律背反!」「はうわいぅぅやぁっ、あううぅぅわぁぁ!」「今ここに燃えと萌えの超交雑種――ダブルブリッドが顕現しているのでごわすよ!」知らん。「あー、本当に大きいでごわすなぁー……なんか腹が立ってきたでごわす!」「ひぃやぁあうあうあうあうあ!?」「こんなにイイ体でしかも可愛いくて胸もおいどんより大きいな・ど・とはああああ!!」「わうあうぃぃたたた助けてほしいでごわしゅうううういやあああ!!」
朝比奈さんの様子があまりにもアレなんでとりあえずハルヒを引き離すことにした。
「……アホかお前は」
野太い声での猥褻行為の応酬を聞かされるこっちの身にもなってくれ。
「でもめちゃデッカいでごわすよ!? 真実と書いてマジでごわすよ!? おんしも触ってみるでごわすか?」
「ひいぃ!?」
「遠慮しておく。……で、するとなにか? お前はこの……朝比奈さんが可愛くてガタイが良くて胸が大きかったからという理由だけで、ここに連れてきたのか?」
「そうでごわすっ!」
今更言うまでもないが真性のアホだ、こいつ。
「こういうマスコット的キャラも必要だと思ったのでごわすよ。で、にくるちゃん、おんし、今何かクラブ活動してるでごわすか?」
「あの……手芸部に……」
なんであなたもそんな宝の持ち腐れな行為を――とは言うまい。なんせ今ここに連れてこられたということは、だ。
「じゃあ、そこは辞めるでごわす。我が部の活動の邪魔でごわすから」
やっぱりな。
「……………………」
朝比奈さんは、今から飲むのはコーヒー入り炭酸飲料かもしくは飲む寒天唐辛子のどちらがいいかと問われたリアクション芸人のような悲愴な顔でうつむき、
救いを求めるような顔で俺を見上げ、次に長門湖の存在に初めて気づいて驚愕に目を見開き、「そうでごわしたか……」と呟いて、「解りましたどすこい」と言った。
何が解ったんだろう。
「手芸部は辞めてこっちに入部するでごわす……あ、入会でごわした。しかしながら、お菓子研究会とは何をするところなのかよく知らなくて――」
「へ?」
「この部屋は、一時的に借りているだけなんです。あなたが入らされようとしているのは、そこの涼宮山がこれから創る活動内容未定で名称不明の同好会ですよ。
――ちなみに、あっちで座ってお菓子むさぼっているのが本当のお菓子研究会会員です」
「……はぁ……」
パーツの1つとしてみりゃ愛くるしく見える唇をポカンと開けた朝比奈さんは、それきり言葉を失った。まあ当然だろうな。
「だぁーいじょうぶでごわすっ! 名前ならたった今考えたでごわすよ!」
「……言ってみろ」