2009-04-04

ある進学校のはなし。

増田空気いじめの話が花盛りみたいなんで、俺も思い出したことを書く。

俺の通っていた高校は、毎年だいたい上位10人くらいを東大に、100人くらいを旧帝大国立医学部に送り込む、まあよくあるタイプの「田舎のトップ進学校」だった。

ネット上でも似たような意見をちらほら見るが、このくらいのレベル進学校となってくると、さすがに新聞記事やネットを賑わせるような、あからさまないじめ行為が見られるような雰囲気ではなくなってくるようだ。俺の時も確かにそうだった。

「そんなくだらない事にリソース裂いてられない」というのも、まあ、要因としてあるんだろうけど、それ以上にみんな、「自分加害者・悪者になることのリスク」に敏感だったんじゃないかと思う。そんなことはさて置いても、みんな良い奴らだった。

そんな俺らの学年において、ひとり見事にぶっちぎり最下層の地位を不動のものとしていた彼女は、やっぱり例に漏れず、「ひどく空気が読めなかった」。そして、さらに悪いことに、平均を逸脱して容姿がだいぶ劣っていた。否定してもしかたがない。少なくとも、俺は未だ彼女以上に醜いと思う女性を見たことがない。その分勉強が他よりできるかというと、むしろ下のほうだった。

同学年の生徒たちの間で彼女のことが話題にあがらない日はなかったが、ポジティブな噂は全くと言っていいほど聞かれなかった。曰く、英語時間に(彼女英語は得意だった。えらく流暢な発音で喋った)、他の生徒が間違えた訳文を正答して、そいつの方を向いて鼻で笑ったとか。曰く、ある日ホチキスを貸したら、留めたい部分に届かなかったか何かで、「つかえねー。」とか言って返されただとか。今となってはそうした噂のどれほどが真実だったのかは判らない。

誰も彼女を無視したりはしなかった(無視?とんでもない!そんなことをしたら『いじめ』だ)。彼女に話しかけられたクラスメートは誰でも、曖昧に微笑んで相槌を打ち、そしてそのあとで、そばに居る友達と顔を見合わせて、「困惑した笑い」を交わすのだ。

誰一人として、結託して彼女を疎外したりはしなかった。そこにはただ、彼女を「ちょっと苦手」にしてる人がいただけだった。だれもが彼女を「苦手」だった――「誰だって苦手な人ぐらいいるでしょ」そう、たまたまその対象がみんな同じだっただけで。

いじめは、いじめるほうが悪い。当時その学校にいた誰に聞いても、たぶんそう答えただろう。「いじめられる方にも責任がある」という言説なんか、だれも認めなかったと思う。

事実、俺らの間にいじめは「なかった」。みんながある女の子を「個人的に、自主的に」避けていただけだった。そこに加害意識などあるはずもない。むしろ、「個人的にニガテ」だから避けてるのに、馴れ馴れしく寄ってこられるこちらの方こそ被害者だと、たぶんみんな思っていた。

繰り返すが、みんな良い奴らだった。ホントに。

ところでそういう俺自身が、彼女とどう接していたかというと、まあ、語るまでもない。他の人ほどあからさまな態度をとらないようにはしていたつもりだが、それは多分ただ単に、俺自身比較的下位カーストに属していたために、そうしたアクションをとってみせる必要があまり無かっただけに過ぎない。

彼女は丸々三年間をそうした境遇の中で過ごし、そして無事大学へ進学したらしい。その後どうなったかは、俺は知らない。

今にして思えば、彼女自殺してもおかしくなかったと思う。そしてそうなったらそうなったで、「とばっちりを受けた」俺たちはたぶん、顔を見合わせて困惑していたんだと思う。それだけ。

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