Gigazineで、「27歳になると知能が低下する」という記事が注目されているようだ。
日本語訳:「一方、27歳になると推理力・思考速度・空間の具現化の3つの項目が著しく低下し始めていることが研究で明らかになったとのこと。」
げ、やべ、俺25歳、後2年だ。大学時代、もっと勉強しておけばよかったしくしく・・・と思って、元の英語の記事を読んでみる:
原文:"The first age at which performance was significantly lower than the peak scores was 27 – for three tests of reasoning, speed of thought and spatial visualisation."
あれ?「著しく低下する」なんてどこに書いてあるの?じ~~~・・・・
・・・・もしかして、"was significantly lower than"を、「著しく低下する」って訳したのか?バカタレ!このsignificantlyは、「有意に」だ。データ取ってみたら、22歳がピークだったから、22歳とx歳の間に統計的な有意差があるかどうかを、xを23, 24, 25,...と増やしながら、年齢ごとに検定していって、x=27で、初めて、推理力・思考速度・空間視覚化の3つのテストで統計的に有意に(significantly)差が表れました、って意味だろ。
心理や教育のような人間を対象とする科学の分野の学術論文で、"significantly"とか"significant"って書いてあったら、それは、統計的な検定を行った時の「有意に」とか「有意な」という意味に決まっているではないか!論文中で"significantly"に差が出ましたって書いておいて、検定やっていなかったら「ちゃんと検定やってください」って査読者にはねられて、論文が通るわけがないのだから。
俺、心理も教育も全然専門外で、単に情報系大学院出ただけだけど、これぐらいはわかるぞ。「著しく」じゃなくて「有意に」であることがわかったら、「あー、そんなもんだろうなぁ」、と、納得できる。一般的に年を取ると知能が低下することは知られているが、具体的に何歳でどれぐらい知能が低下かを計測するのは、かなり難しい問題のはずだ。ある一人の知能テストを継続的に受けさせて、年をとったところで点数が下がったとしても、偶然である可能性もあるし、計測した人がたまたま、「年齢と知能テストの相関がとても激しい特異体質」であったかも知れず、一般の人がどうこう、ということについては何も言えないからだ。
この論文は、2000人について、知能テストを継続的に受けさせて(それ自体がものすごいことだと思う)、年齢以外に知能が低下した原因が考えられないような状況を作り出した。そこまでして、やっと、「27歳は、22歳と比べて知能が低いという統計学的な証拠が出ました」ということが、いえたという印象。頑張ったなぁ、力技の論文だなぁ、マジメに検証して偉いなぁ、と思う。
世の中ね、そんな簡単に「著しい」なんていえないんですよ。特に一般的に常識になっていることほど、そう。「女子は感情的、男子は理論的」とか、「一人っ子はわがまま」とか、常識的に信じられているけど、それをサイエンスとしていうためには、すごく限定された設定でものすごくたくさんアンケートをとって、ようやく言えるか言えないかってところ。そう簡単に「著しい」差なんて出たら苦労しないわ、バカタレ。
追記:
「心理や教育のような人間を対象とする科学の分野」でなくても、自然科学系なら一般的に"significantly"は「統計的に有意」の意味だろう、という指摘があったけど、以下の理由により、こういう表現をしました。
・分野によっては、「統計的に有意」という概念が有用でない場合がある
例えば、物理・数学・情報科学などで、何か命題を証明するときに、「実験してみて統計的に有意ですから、この数式は正しい」ということは普通やらず、数学的な操作を繰り返して証明する。こういう風に、統計や検定が関係ないということが明らかな文脈では、"significantly"は「統計的に有意」以外の意味を持ってもおかしくないので、限定しておいたまでです。