寝坊した私は焦った。
私はすっかり慌てふためきマッハの速度で、30秒のうちにマンションを後にした。
化粧は、
これはやりたくなかったが
起きぬけに急に動いたせいで吐き気がしたが
そんな事にかまってはられない。
駅を通り過ぎた向こう側に、
それからというもの、駅周辺は賑やかになった。
まだ駅手前でないからマシなものの、駅構内は混雑を極めるのだ。
マンモス急がなきゃ。
カツカツと鳴るヒールに私はとめどなく付いてゆく。
憧れの先輩目指して長年くじけていたダイエットに成功してからだ。
それと同じように私は目標を持って、目の前の人を追い越す作業に没頭した。
高いヒールのせいで足首がぐんにゃり曲がったが気にする所の騒ぎではない。
ふと、気が付くと私の数メートル前をバーコード男がそれに似合わぬ速さで闊歩していた。
(このおっさん、同士だな。)
そう思った私はバーコードを追い抜く事に決めた。
だが、向こうもかなり急いでると見えてなかなか追い付けない。
私は小走りになった。
カツカツと響く足音
振り向く人達
するとどうだ
私の足音に急かされるように
バーコードも小走りになったのだ。
(負けてたまるか)
男まさりの私の逃走心に火が付いた。
私は徐々に速度を早めた。
気付かれないように足音を小さくする配慮もした。
気分はチータだ。
バーコードを狩るチータは確実にしかし慎重に
ひたひたとバーコードを捉え、追い越した。
すると次の瞬間、
全速力で私を追い越すバーコード。
負けるものかと私。
バーコードと私
私とバーコード
部屋とYシャツと私
追いつ追われつの
追われーの追いーつの
(死んでも追い抜いてやる。)
手段が目的にすり替わるのもいとわず
私は鬼のようにダッシュ!
バーコードを追い越す瞬間、チラリと振り向いてみる。
すると彼の目は炎と燃え、私の目玉をくり抜かんばかりの気迫を見せていた。
が、もう私には追い付けまい。
してやったり。
よっしゃとガッツポーズを取って
もう一度、敵を振り返る
なんという事だ。
敵は大きなビルに吸い込まれていき
私の遅刻は確定した。