2009年1月22日の放送の『 見放された患者と共に闘う "がん難民コーディネーター"』という特集でホメオパシーが取り上げられていた。"がん難民コーディネーター"の藤野邦夫氏が、医者にさじを投げられてしまったがん患者に、治療法の提案を行っているという内容。藤野氏の提案で免疫療法を受けることになったがん患者のHさんは、あろうことかホメオパシー"治療"をうけることになってしまう。
その特集は以下で見られるが、ホメオパシーに関連する部分を引用してみた。
動画: http://www.tv-asahi.co.jp/hst/contents/movie/090122/index.html
(ナレーション)帯津医師はまず星さんの免疫力を高めるためにホメオパシー治療の開始を決めた。ホメオパシーとは病気と直接因果関係が説明できない植物や鉱物をごく微量一種類ずつ変えながら一定期間患者に投与することで免疫の働きを活性化させる。科学的な理論は実証されていないが、効果が認められており、世界的に普及している。
(帯津医師)「理論的なエビデンスがないものはいっぱいあります。世の中に。だからといって排斥することはない。良いところは認めて、それでそれだけでやろうってんじゃないわけだから。それをやるのと一緒に西洋医学も中国医学もホメオパシーと一緒に考えていけばいいわけですよ。」
(ナレーション)ホメオパシー治療では微熱や眠気の副作用があるものの、数週間で免疫力が上がる効果が期待できる。
[中略]
(ナレーション)ホメオパシー治療を続けて一ヶ月後、Hさんを訪ねた。
(Hさん)「こんにちは。どうも。」
(ナレーション)寝たきりだった星さんが多少は動けるほどになっていた。体重は2キロ増えた。星さんは藤野さんから教えられたガンと闘う8ヶ条を実践していた。
(以下省略)
1.「ホメオパシーとは病気と直接因果関係が説明できない植物や鉱物を」
基本的に事実でない。
ホメオパシーで用いる標準的な治療薬(通常は薬とはされず、レメディと呼ぶ)は、植物や鉱物を水やアルコールで10の30乗倍に薄めたものを用いる。多くの場合では、これを砂糖や乳糖の粒に染み込ませ乾燥させたものを患者に与えるらしい。
10の30乗倍に薄めるというのは、原液1滴を地球の海の水全部で薄めたのよりもずっと薄くするということ。
そんなに薄めることは地球上では不可能だと思われるかもしれないが、1 mlの原液を9 mlの水と混合し、その混合液からまた1 mlとって水と混合し、、、と10倍に薄める操作を30回繰り返すことで達成可能。
とにかく、これはもう、ものすごく薄い。どれくらい薄いかというと、患者の口に入るレメディには原物質が一分子も含まれないくらい薄い。つまり、患者の口に入る治療薬には、植物も鉱物も含まれていない、水を染み込ませた、ただの飴玉ということになる。
ただの飴玉に効果があると言い張る、それがホメオパシー。
事実。
理論としては"物質が一分子も含まれなくても、水が情報・波動を記憶している"という説が有名だが、科学的な裏付けは一切ない。そのヘンテコな理論を提出したベンベニストの実験は再現できず、イグノーベル賞を受賞してネタにされるに至った。しかも2回受賞したのは彼の他にいないだろう。
http://improbable.com/ig/ig-pastwinners.html
3.「効果が認められており、」
事実でない。
ホメオパシーを受けた患者の治療成績は、偽物の薬(いわゆるプラセボ)を処方された患者を受けた患者と変わらなかったという結果がすでに出ている。
Shang, A., Huwiler-Müntener, K., Nartey, L., Jüni, P., Dörig, S., Sterne, J. A., Pewsner, D., and Egger, M. (2005). Are the clinical effects of homoeopathy placebo effects? comparative study of placebo-controlled trials of homoeopathy and allopathy. Lancet, 366(9487):726-732.
つまり、ホメオパシーは理論上効くはずもないし、実際に効くことも確かめられていない、おまじない同然の行為ということになる。
というわけで、報道ステーションのナレーションは極めて不正確。報道ステーションは、医療の皮を被った呪術であるホメオパシーを、有効な正真正銘の医療として宣伝してしまったことになる。これを見てホメオパシーに興味を持ち試そうとする人もいるだろうし、これをお墨付きにしてホメオパシーの宣伝が行われるということも十分にありうる。