いつのまにか好きになっていた。
一緒にいるだけで、胸がわくわくして幸せだった。
ただ声を聞くだけで、安心できた。
彼女がいないときもいるはずもない場所なのに、彼女を探してた。
そして振られた。
世界が終わった。
それまで、彼女といるだけで輝いてた世界が、暗く終わりのない苦しみに変わった。
同じ世界なのに、同じ道なのに、同じ空なのに、同じ食べ物なのに、同じ言葉なのに、同じ一日なのに、何もかもがつらかった。
振られたときの帰り道をどう帰ったのか覚えていない。
最後に「さようなら」と言われて、気づいたら自分の部屋のふとんに寝ていた。
一瞬夢かとも思った。
でも、やっぱり、夢じゃなかった。
何を考えていたのかあまり覚えていない。ただ、時計の秒表示をじっとだまってぼーっと眺めていた。
涙もでなくて、何もできなくて、何かをしようとも思いつかなかった。
自分が今何をしていて、どうして布団に入っているのか。何をすべきなのか、何もわからなかった。
ただただ体が今まで感じたこともないくらいに重くて、そのうち気がつくと胸にずきずきと痛みが走ってきていた。
苦しくて、寂しくて、会いたくて、でももう会えなくて。
もう二度とあの笑顔を彼女は自分に向けてくれないのだと気づいて、つらくて苦しくて、生きていたくなくなった。
なにか彼女の笑顔以外に生きる糧があるのなら教えて欲しかった。
「さようなら」と彼女に言われた言葉と同じ言葉を言って、この世ともお別れしようと思った。
彼女の笑顔がない世界は、地獄でしかないと思えた。この胸の苦しみと痛みから逃げたくて仕方がなかった。アパートの最上階から見下ろす景色が、恐怖ではなく歓喜に変わっていたのには自分も驚いた。人ってすごいなと思っていた。
死ぬのを止めてくれた人がいた。本当は死にたくなかったのかもしれない。そんなに人に期待してなかった。人には期待できないということを確認してから死にたかったのかもしれない。
でも生きている。止めてくれた人は優しい人だった。そして私よりずっとずっと大人だった。彼女の言葉に私はやっと涙を流すことができた。救われた気がした。
私は、あのとき、私を救ってくれた人に本当に感謝している。そして、誰よりも尊敬している。彼女みたいな人がいるなら、この社会も世界も捨てたものじゃないと心底思える。
その恋人も私の友人だった。二人とも、とても良い人だ。二人とも尊敬している。
大学に入ってすぐに、私は振られてしまったけれど、つい先日、その尊敬する二人は結婚式を挙げた。私を含めたたくさんの人に祝福されて。
我が事のようにうれしかったのは、自分の叶わなかった想いをその二人に重ね合わせていたからなのかもしれない。二人の幸せそうな笑顔を自分の心の古傷にそっとあてて、傷口を埋めていたのかもしれない。
そんなことを思っている今日このごろ。
(だからなにというわけでもない)