2007-08-01

売り手市場の新人模様

最初の違和感を感じたのは、入社式のまさに当日だった。会社見学面接で出会った人たちの優秀さに憧れ、期待と緊張をもって入社した会社だった。そのはずが、配布された研修メニューはあまりにも生ぬるかった。これぐらいのこと、大学出の人間に今更教え込むことじゃないだろうと。

だが、それがそうではなかったのだ。礼儀作法にしろ、専門知識にしろ、同期のほとんどはまるで身に付いちゃいなかったのだ。お前らいったい大学で何をしていたのかと呆れた。もちろん、知識が足りないことはそこまで致命的なことじゃない。今から勉強すれば済むことだ。

しかし、同期のほとんどは研修をなめきっていたのだった。講義を聴いてまともに課題をやろうなどという奴は数えるほどしかおらず、私語をしたり寝たりしている奴らばかりだったのだ!彼らはいったい、この研修無料であり、しかも給料までもらっているものだということを自覚しているのだろうか?全く理解できなかった。これでは誰にとってもこんな研修無意味だ。何のために俺は、高校生の頃から知っていたような話を毎日八時間も聞かされているのか、情けなくて仕方がなかった。


そのうち、最初のうちは緊張感もあった同期の間の関係も崩れ始めてきた。だが、打ち解けてきたというようなものではない。いつまでもだらしなく騒いでいる奴らが、ただひたすら馴れ合うだけの、吐き気がするような空間。そんな中での連日の飲み会の誘いを断るのはそれだけで気疲れだったし、行けば行ったでプライベートなことを根掘り葉掘り聞かれて不愉快な思いをさせられるだけだった。彼らは人に「空気を読め」と言いたがる割には、ノリの合わない他人に気遣いをする気なんか最初からさらさらないのだった。といって、「同期の絆は人脈として大切だ」と言われている以上、これも仕事上の付き合いなのだ。嫌われるような行動はとれない。まるで手足を縛られたようでどうしたものかわからず、困り果てていた。


研修も半ばを過ぎ、配属先との顔合わせやそこでの飲み会なども経験した。そうして再び優秀な上司や先輩と再会した頃、ようやく俺は気付いたのだった。あまりにも鈍感だった。俺の採用された部署はこの会社の中のエリート部隊だったのだ。なまじ有名企業だから勘違いしていたが、新入社員がみんな優秀なんていうことはなかったのだ。暗黙の「幹部候補生」と「兵隊」の振り分けは間違いなく存在し、前者はほんのごく少数なのだった。

時が経つにつれ、だんだん俺を取り巻く周囲の目は冷たくなり出したようだった。俺の「付き合いの悪さ」が嫌われていたのかもしれない。実際、飲み会に行かない奴はいい奴であってもことごとく「空気の読めない奴」だとか「自己中」だとか陰口を叩かれていた。あるいは、奴らも社内のヒエラルキーに気付きはじめて嫉妬をはじめたのかもしれない。たまに飲み会に顔を出そうものなら、だんだん「お前、将来は高給取りになるんだろ」などと遠回しな当てこすりを言われるようになってきたことからそのことはなんとなく想像できた。


段々会社に行くのが憂鬱になってきたが、これが終われば優秀な先輩や上司に囲まれて刺激に満ちた環境仕事ができるのだと自分に言い聞かせ、いよいよ研修の最終日を迎えた。

最後の日にはお約束のように飲み会があった。まあ、いろいろあったけれども、最後の日ぐらいは予定調和の「みんな仲良し」モードに付き合ってやってもいいか。そう思った俺は、大半の奴らとは違った意味ではあってもどこか晴れやかな気分で飲み会の席に参加した。予想通り皆のテンションは高く、いつもにもまして馬鹿なことをやらかす奴もいたが、まあそこまで気に障らずにはすんでいた。

宴もたけなわとなってきた頃、一人の女が俺に話しかけてきた。

「○○君、そういえばしゃべったことなかったよね」

「ん?あ、そうだったかもね」

「ねえ、ずっと前から○○君に聞きたかったことがあるんだけどいいかな?」

「ん、何?」

多少嫌な予感がしたが、営業スマイルで答えてみた。しかし、次の言葉には絶句するほかなかった。

「噂になってるんだけど、○○君って、出会い系サイトで出会った彼女がいるって本当?」

「はあ!!????」

現実が信じられなかった。どうして、そんなに「付き合いの悪い」俺が不快デマの種にならねばならぬのか。目まいを起こしかけている俺をよそに、その女はさらに言葉をつなぐ。

「でねー、○○君って実はその彼女と会ったこともないんでしょー?」

もはや俺には、言葉言葉としても聞こえていなかった。三ヶ月間ずっと大人しく我慢した挙句がこの仕打ちなのか。俺は黙って目の前のグラスを取ると、泡盛ロックを一気に飲み干した。

それ以後、俺が奴らと二度と会っていないのは言うまでもない。


あれからはや一年。だんだん仕事が手につき始めた頃だ。期待通り周囲の人たちは優秀な人ばかりで、厳しいながらも充実した日々を送っている。あの頃の記憶はもう既に頭から薄れ始めてきている。何も学ばず、何も得るものなかった日々というものがこれほど空しいものだということは、今までの人生ではじめて体験したことだった。

  • 「っぽくね?」が「らしい」に、そして「だそうだ」へと移り変わる

  • 何も学ばず、何も得るものなかった日々 しかしいつか顧客その他の仕事先の人間の中に君の同期のご同輩を見る日が来るよ。そのときに今回の経験は役に立つよ。エリートの中で育っ...

    • 支持。 俺もこの子はこの三ヶ月の研修で得るものがあったと思う。 なにせ君はそのような研修でも寝てしまう「何も学ばない」子達を将来部下としてコントロールしていかなければなら...

  • 「彼女いない歴=年齢、でもちろん童貞です」 って答えればよかったのに。

  • 君は何を見聞きし、何を考えてきたのだ?何を学んできたのだ? 君は本当に学んでいるのか? 「仕事で、人生で、社会で一番大切なものは人間関係である」 君はそう思ったことはない...

    • そういう偉そうな説教をする人ほど、陰で嫌われているという事実。

    • 「仕事で、人生で、社会で一番大切なものは人間関係である」 だけど、出会う全ての人と、真正面からの人間関係を結ぶ必要はないよね。 そのうわさの出所はどこか分ったのか? こ...

    • 君は本当に学んでいるのか? 「仕事で、人生で、社会で一番大切なものは人間関係である」 君はそう思ったことはないのか?今までの人生でそれを学ばなかったのか? http://anond....

  • AERAの取材に向け、スクールカーストネタを大募集!http://d.hatena.ne.jp/Masao_hate/20070801/1185948448 人力検索版http://q.hatena.ne.jp/1185950124 俺Masaoだけど、↑と同じ募集をここ増田でもやります。 ...

    • このエントリの前振りとして荒らしていたようにしか見えないw と言うか過去ログ漁ったらどうかな。いくらでもでてくるっしょ。

  • http://anond.hatelabo.jp/20070801010448 自分のダイアリーに書こうかと思ったけれども、いろいろ微妙な部分もあるので増田に書きます。 そのうち、最初のうちは緊張感もあった同期の間の関係...

  • http://anond.hatelabo.jp/20070801010448 です。いろいろとご意見ありがとうございます。 一つ心に留めておきたいのは、そういう人材であれ「会社の上層部の人間が時間と労力と多額の費用をか...

    • 五年後、会社は見事に潰れるのでございました。 そ、そんなに簡単に会社が潰れるか? 大勢の新入社員を一気に取るだけの体力がある会社で?

      • なんでそんな細かいところばかり反応するかなあ。 五年後、会社は見事に潰れるのでございました。 そ、そんなに簡単に会社が潰れるか? 大勢の新入社員を一気に取るだけの体...

        • 皮肉には知性が出るから気をつけた方がいい。

        • まぁほら。 正攻法で生き残れるほど力もなく、かといって邪道に踏み込むには勇気がなかった憐れな人たちに出来るのは、匿名でことばのあやをあげつらっては悦にいることぐらいです...

        • まあ、正攻法が通じる世の中なら良いんだけど。 でかくて勢いある会社でもそうじゃなかったりなんかする事があって、どうにももどかしい。 うちんとこの小細工出世上司を誰かが正攻...

        • http://anond.hatelabo.jp/20070803002312 小細工からスタートした仕組みの中で正攻法をどうやって行使するのか教えてくれ その仕組みの中では小細工が正攻法じゃないのか?

        • 関係ないことかもしれないけど、個人的に、「社会は厳しいんだ」系の説教は苦手で反発する感情しか抱けないけど、「社会は厳しくも甘くも無い、ただ、どうにもならないだけだ」系の...

          • いやぁ、「現実は厳しい」なんて説教したがる奴に、自分に厳しい奴はいないよ。 本当に苦労してりゃ、誰とも知れない他人に説教するような時間の無駄には耐えられないもんだ。

      • 関係ない話題を引っ張るけど、会社ってのは経営者が意識して潰そうと思わなければ潰れないものだけど、だから潰れないというものではない。規模とか期間とかは関係ない。

    • 五年後、会社は見事に潰れるのでございました。 これも幻想だと思うなあ。世の中そんなに分かりやすくなってないし、そんなに君に都合のよい成敗なんかしてくれないよ。世の中の...

  • あなたは小細工というものを過小評価しているみたいだけど、人の上に立つほど年季が入ってくると小細工君もそれなりに強さを持っているから、 くれぐれも舐めたりしない方が良い...

    • anond:20070804005808 エリート組とそうじゃない組があるってことは派閥ってことかな 不快感はいったん置いておいて、同期とは「親しい振り」をしておけばよさげだけど。 或いはしてるの...

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