私は数年前に居酒屋でバイトをしていた。チェーンの食べ放題の店で、安く量を売るのが持ち味の店だった。そのためバイトには時給に似合わない苛烈な忙しさが付きまとい、私は一年ちょうどでそのバイトをやめてしまったのだった。
だがいまだにそこで学んだ事をよくよく覚えていて、しょっちゅう思い出すタイミングがあるのである。めんどうなオーダーを適当に手順に従わず楽に仕上げるやり方だとか、どこまでてを抜くとクレームが来るのかとか。そういうズルさをいくつも習得した。
そんななかでも、学んだ事の中には有益なものもある。みっとも、役に立つ事はまれなのであるのだが。
上野の立呑屋ではリンゴサワーを頼むと薄気味悪い黄緑のジョッキが運ばれてくる。これは青リンゴの濃縮シロップと安物の焼酎を炭酸水で伸ばしたものだ。私は一口でそれがわかる。そ同時に、この店の裏にいるバイトの考えている事が伝染してくるようだった。