■ AIアート甲子園のここがすごい

最近Twitterで話題になっている「全国AIアート甲子園@i-SEIFU」(https://aikoshien.wraptas.site/)のすごさについてまとめる。

そもそもAIアートはアートではない

• まず前提として生成AI出力物が著作物として認められる条件は「創作意図があること、且つ、創作的寄与があること」である。
• しかし「創作的寄与」を実現することは非常に難しい。
• 生成AIのプロンプト入力方式で創作的寄与といえるレベルの指示をAIに与えることは実質不可能である。「可能性はゼロではない」という程度。
• 文化庁資料「AIと著作権に関する考え方(令和6年3月15日付)」5章(3)には「生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる」「長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる」「試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる」「単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる」とある。
• 創作的寄与といえるレベルの指示とはどのようなものか？については、文化庁の提示する法解釈に具体性がなく裁判の判例もない。いまのところ「このAI生成物には著作物性がある！」と断言できる人間はこの世に一人もいない。
• つまりAI生成物は著作物性のないたんなるアイデアであり芸術ではない。AIアートというネーミングは間違いである。

AIアート甲子園は教育的でない

• 仮に、同イベントが芸術でなく「AIツール操作の巧拙」「アイデアの優劣」を競うイベントであると仮定する。
• 「AIツール操作の巧拙」「アイデアの優劣」を競うイベントであるなら巧拙優劣を判断する基準が存在するはずだが、募集要項には明確な基準が記載されていない。「作品のクオリティ(美しさ、独創性、完成度)／AIツールの活用度合い／作品のコンセプトとメッセージ性」とだけ書かれている。いったいなにをどうすればAIツールが充分活用されたと言えるのか？良いコンセプトの条件とはいったい何なのか？
• これはようするに小学校の国語の授業で散見される「良い作文の条件を教えられていないのに作文を書かされ点数付けされる」状況と同じである。何をどう努力していいのかわからないのだから努力しようがない。参加者は無力感を感じAIアートに失望するだろう。
• これでは教育とは呼べない。学校法人が主催して良いイベントではない。

AIアート甲子園は要求が厳しすぎる

• 同イベントの募集要項には「他者の知的財産権を侵害する作品は認めません」とある。
• 一見当たり前の注意事項のようだが、生成AIにおいては当たり前ではない。生成AIには「意図せず他人の著作物の丸パクリ画像を出力してしまうリスク」があるからだ。
• 画像生成AIはテキスト生成AIと異なり出力の際に参考に用いたデータを開示しないため、AI利用者には「意図せず他人の著作物の丸パクリ画像を出力してしまうリスク」を回避する方法がない。
• 参加者は実行不可能なことをやれと要求されている。要求が厳しすぎる。

AIアート甲子園はクリエイター搾取である

• 同イベントの募集要項には「入賞作品の著作権は主催者に帰属します」とある。
• 応募作品を広報活動に使用する目的であるなら著作権そのものを主催者に帰属させる必要は全くない。不当な要求でありクリエイター搾取である。
• また、高校生対象のイベントでこのような要項を設定することは、高校生に「著作権とは安易に譲渡できる安い物だ」という誤った価値観を与える恐れがあり、職業教育としてふさわしくない。学校法人が主催して良いイベントではない。
• (追記：2024/5/13付で「入賞作品の著作権は主催者に帰属します」という項は削除されました)

AIアート甲子園はずさんな運営である

• 同イベントは応募締切が2024年6月22日13:00であるのに、結果発表も2024年6月22日となっている。
• 選考期間がたった半日しかなく短すぎる。
• 真面目に応募作品を選考する意思があるのか疑わしい。

AIアート甲子園は生成AIのイメージ向上に役立たない

• 世間には「生成AIを規制せよ」「生成AIの無断学習を禁止せよ」と主張するいわゆる「反AI」が存在する。彼らの主張の根底にあるものは、生成AIを利用した犯罪・脱法ビジネス・嫌がらせ行為が野放しになっていることへの危機感である。
• このような状況において、AIアート甲子園が生成AIのイメージ向上に役立つかといえば役立たない。AIアート甲子園が開催されたところで生成AIを利用した犯罪・脱法ビジネス・嫌がらせ行為が消えるわけではない。AIアート甲子園自身も「意図せず他人の著作物の丸パクリ画像を出力してしまうリスク」を解消できていない。
• 生成AIのイメージが悪化している今の状況でAIアート甲子園を開催すると、参加者の高校生が非難の対象になり得る。これもまた教育的でない。学校法人が主催して良いイベントではない。
• なお、武蔵野美術大学が2023年に開催したAI絵画コンテストは実際に開催中止になった。https://www.yomiuri.co.jp/national/20230805-OYT1T50207/

　以上、「全国AIアート甲子園@i-SEIFU」(https://aikoshien.wraptas.site/)のすごさについてまとめた。今後もこのようなすごいイベントがいくつも現れると予想される。すごいイベントのすごさに注目したい。

Permalink | 記事への反応(6) | 10:16

ツイートシェア