多様性ということばが人口に膾炙してから久しい。
多様性を尊重するという建前のもとで、働き方、生き方に幅を持たせる試みが幾度もなされてきた。
つまり、我々は多様性を尊重するという至上命題を尊重するあまり、ただ「種」を分化させることだけに努め、異種交雑にまで頭が回らなかった。
むしろ我々の理想は後者ではなかったか。多くの人がいて、多くの考え方があり、交わり、多くの人生の交流が生まれ、闊達な社会を臨む。それが我々の理想ではなかったか。
ところが現実は違った。我々は、他者は他者であるとして自らを鎖し、近しいものだけの疎な結合に情熱を注ぎ、異なるものとの壁を堆く積むばかりに執心するばかりとなり、より偏食となり、食わず嫌いを促し、それを食べるものは気狂いだと非難さえしてしまっている。
今ここに、多様性の敗北を宣言しよう。
今ここで、錦の御旗を降ろし、白旗を掲げよう。
今ここから、自由の許されぬ固い多様性を満喫しよう。