空を貫くがごとく吃立した巨大な肉棒が、日の光を受けてビル群の一角に広大な影を投げ込んでいた。
人々は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、悲鳴と怒号がこだまするその様子に冷静の二文字はなく、街は混乱の極みに陥りつつあった。
肩をぶつけ逃げ走る人々の流れに逆らい、肉棒と相対するように空を見上げていた少女が、こぼすようにつぶやく。
その言葉に感応するがごとく、巨大な肉棒がびくりと脈動した。
地が揺れ、空気が揺れ、悲鳴は増幅され、人々はさらに深く混乱へと誘われる。
どこかでビルが倒壊したのだろうか、少女が爆砕音のした方へ視線を向けると、積乱雲のような土煙の塊が膨らみ立ち昇っていた。
視線を肉棒へ戻すと、今にも張り裂けんばかりに怒張した肉棒、その丸く膨らんだ先に、玉のような我慢汁が浮かんでいた。
――まるで、宝石のよう。
少女は、この世の地獄ともいうべき忌まわしき状況において、こんな場違いな想像をした。
天を衝く巨大な肉棒の先にある、宝石のような玉。この非日常的な状況におけるからこそ、少女は混乱の渦中にある美しいものに気がついたのかもしれない。
今この場所この状況において、少女と肉棒は確かに美しかった。
肉棒がひときわ大きく反り立った。
瞬間、肉棒の先から練乳を思い出させる白濁液がほとばしり、太陽を覆い隠した。
まるで津波が襲来したかのようだった。あるいは神話で語られるノアの方舟の洪水か。
ごぷりごぷりと音を立てて街と人々を飲み込んでいく白濁液は、世界の終焉を思わせるほど、絶望的で創造的であった。
その光景を見つめ続けていた少女が最期に見た光景は、追い寄せる白濁液の波の後ろで、先ほどとは打って変わってしなびれた肉棒の姿だった。
視界に真っ白なとばりが落ちて、やがては思考も痛いほどの白さに飲み込まれていく。