発端:http://i.imgur.com/VlwP6.jpg via Reddit
オリジナル:http://www.galactanet.com/oneoff/theegg_mod.html
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おまえが死んだのは帰宅の途上のことだった.
車の事故だ.なにも特別なことはない.ただ命取りだっただけだ.お前は妻と2人の子供を残して逝った.痛みはなかったはずだ.救急チームはベストを尽くした.でも駄目だった.おまえの身体は完璧にぶっ壊れてたから,死んだほうがよかったんだ.嘘じゃない.
そしておまえは私と出会った.
「一体……何が起こったんです?」お前は尋ねた.「ここはどこなんですか?」
「そう」と私.
「わたしは……死んだ?」
「そう.だがまあ気を落とすな.誰だって死ぬ」と私.
おまえはあたりを見渡す.まわりには何もない.おまえと私だけだ.「ここはどこなんです?」お前は尋ねる.「死後の世界ってやつですか?」
「そんなところだ」と私.
「あなたが神様ですか?」とお前.
「ああ」と答える.「私は神だ」
「子どもたちは……わたしの妻は……」とお前.
「彼らがどうした?」
「今後上手くやっていけるのでしょうか?」
「うれしいことを言ってくれるじゃないか」と私.「死んだというのに一番気にしているのは家族のことか.善い振る舞いだ」
おまえは魅惑されたように私を見ている.おまえには私はまったく神様らしく見えない.ただの男,あるいは女性のように見える.多分,ある種の漠然とした権威を示す姿形だろう.「全能者」というよりも学校の文法の教師のほうが近い.
「心配しなくていい」と私.「みんな大丈夫だ.子どもたちはおまえを何事にも完璧な父親だったとして記憶する.彼らにはお前のことを思ってうじうじと悩む暇なんてない.お前の妻は外では泣くだろう.だが内心ではほっとしている.公平に言えば,おまえたちの結婚は終わっていたんだ.ただし,彼女は自分がほっとしていることをとても後ろめたく思っていると言えば慰めになるかな?」
「あぁ……」とおまえ.「で,これから何が起こるんです?わたしは天国か地獄かそんなところへ行くんですか?」
「いや」と私.「おまえは生まれ変わる」
「おぉ」とおまえ.「それじゃヒンズー教徒は正しかったんですね」
「どんな教えもそれ自身の意味では正しい」と私.「ついてきなさい」
おまえはついてくる,私が虚空を歩くに従って.「どこへ行くんですか?」
「どこへ行くというわけじゃない」と私.「ただ,歩きながら話したほうがいいと思ってね」
「それでどうなるんですか?」とおまえ.「わたしが生まれ変わったら,まっさらな状態になるんじゃないですか?ただの赤ん坊に.わたしがこの人生で得た経験も何もかも意味がなくなってしまう」
「そうではない!」と私.「おまえは過去の人生で得た全ての知識と経験を持っているのだ.ただ今はそれが思い出せないだけだ」
私は歩みを止めておまえの肩を掴む.「おまえの魂はおまえが考える以上に素晴らしく,美しく,莫大なのだ.人の心というものは存在のほんの断片しか保つことができない.ちょうど水の入ったグラスに指を浸して,水が熱いか冷たいかを確かめるようなものだ.おまえは自分自身のほんの一部分だけを水に入れている.そこから出してしまえば,得られた経験は全てお前のものになるのだ」
「おまえはこの48年間ずっと人間の中にいた.だからまだ広がりきってないし,浸っていたときの意識の名残りを感じている.もしも私とおまえがずっとこうしていれば,おまえは全てを思い出すだろう.だが,それぞれの人生の間でそうなることはない」
「一体,どれくらい私は生まれ変わったんです?」
「多く.とてもとても多く.様々な人生の中に」と私.「今回,おまえは西暦540年の中国の農家の娘になる」
「何ですって?」おまえはつっかえる.「あなたは私を過去に送るのですか?」
「まあ,言ってしまえばそうだろう.時間というものは知ってのとおりおまえの宇宙にしか存在しないものだからな.私が来たところとは違うのだ」
「あなたはどこから来たのですか?」とお前.
「ああそうだな」と私は説明する.「わたしはある処から来た.ここではないある場所だ.そこには私と同じような者たちがいる.そこがどんなところか知りたいだろうが,正直なところお前には理解できないだろう」
「あぁ」おまえは気を落とす.「でも待ってください,もしわたしが同じ時代に別の場所で生まれ変れるのなら,わたしは自分自身とやり取りできるということではないですか?」
「もちろん.それはいつも起こっている.そして二人は自分自身の人生を意識しながら,それが起こっていることに気づかないのだ」
「ではこれら全てに何の意味があるのですか?」
「本当に聞きたいか?」私は尋ねる.「本当に?おまえは今わたしに人生の意味を問うているのだぞ.あまりに型にはまった質問じゃないか?」
「ええ,しかし利にかなった質問です」おまえは抗う.
私はおまえの目の中を覗き込む.「人生の意味とは,わたしがこの宇宙全てを創った理由は,おまえを成熟させるためだ」
「違う,おまえだ.わたしはこの宇宙全てをおまえのために創った.おまえが新しい生命の中で育ち,成熟してより大きくより偉大な知性となるために」
「わたしだけのために?他のみんなは一体?」
「おまえの他は誰もいない」と私.「この宇宙には私とおまえだけだ」
お前は呆気にとられて私を見つめる.「しかしこの地球上の他の人々は……」
「全てお前だ.お前の別々の生まれ変わりだ」
「ええっ,わたしがみんな!?」
「分かってきたようだな」とおまえの背中を励ますように叩いて言う.
「わたしは今まで生きた人類全て?」
「あるいはこれから生きる者も含めて,そうだ」
「わたしはアブラハム・リンカーン?」
「そしてジョン・ウィルクス・ブースだ」と私は付け加える.
「そして彼が殺した何百万人でもある」
「わたしはイエス?」
「そして彼に付き従った者全てだ」
おまえは押し黙った.
「おまえが誰かを犠牲にしようとするたび」と私.「おまえは自分自身を犠牲にしているのだ.おまえが行った全ての親切は,おまえが自分自身に行ったことなのだ.人類が経験した,あるいはこれから経験する全ての幸福と不幸,それを経験するのはおまえなのだ」
おまえは長いこと考えていた.
「なぜ?」とおまえ.「これら全ては何のために?」
「なぜならいつの日かお前は私のようになるからだ.なぜならそれがおまえという存在だからだ.おまえは我らが種の一員だ.おまえは私の子どもなのだ」
「なんという…」お前は言う,信じられなさそうに.「つまり,わたしは神の一員だと?」
「いや.まだそうではない.おまえは胎児だ.まだ成長の段階にある.全て時代の全ての人生を生きれば,おまえは孵るのに適したほどに成長するだろう」
「それではまるで,この全宇宙は」とお前.「それはちょうど……」
「ちょうど卵のようなものだ」私は答える.「さあ,次の人生に移動する時間だ」
そして私はお前を送り出した.