研究者をやっていて思う。
「お客様の喜び」とは何だろう。
だが、作ったものはいずれお客様のところへ流れていく。
だから、「お客様の喜び」を得られないわけではない。
だけれども、それはとても見えにくいものだ。
そもそも、お客様は企業を思い出しさえすれ、特定の個人の思い出すことは無いだろう。
別にそれだってかまわない。喜んでさえいれば。
営々とした研究開発の先に、最先端のデバイスなり素材なりが出来、近代社会を支える。
新しいパラダイムが生まれ、徐々にあるいは急速にシフトしていく。
研究者は客商売をしているのではない。
研究を通した、技術社会の支配を狙っている、といえるのではないか。
言葉は悪いかもしれないが、私はそういうものだ、という認識を持つようになった。
だからこそ、「ずれ」は気づかぬうちに、研究者とお客様の間に、修復不可能なほどに広がるのではないだろうか。
技術への固執は、支配へのこだわりと変わらない。
為政者へのそれと同じように、そのこだわりはお客様の嫌悪感や無関心を誘う。
今のソニーがそうであるように。
もう一度、原点に立ち戻らなければならない。
原点とは、まさに、原点。
「何も持たない状態」だ。