2010-02-12

トヨタリコール問題にみる、クレーム処理の適切な対応(2)


 トヨタリコール問題だが、なにあれ? ちょっとプロとしてあの態度はまずかったと、正直思った。結局トヨタリコール問題は全権が社長に(つまり最も適した対応が出来る人に)委ねられることになり、その後沈静していくと思う。

 なので、ちょっとこれを機会に、適切なクレーム対応というのを書いてみたい。

 前回、トヨタプリウスABS問題に対する対応が、全くなっていなかった事を説明した。ひとことで言えばここにたどり着く。

 お客の不安を解消しないと駄目なわけで、それはフィーリングの問題だから車の問題ではないって、つまりこれはお客のせいにしているわけだねえ…。

 トヨタリコール問題があれほどまでに大きくなったのは、これは車の問題ではない、お客の使い方の問題だ、お客の感じ方の問題だと責任をお客に転嫁してしまったこの一点にある。これはクレーム処理の基礎のキも知らないことになる。

 さて、いったい、クレーム処理とは何だろう?

 たとえば目の前に怒り狂ったお客がいる。

 このとき、あなたは「何をゴールとして」クレーム処理に取りかかればいいのだろうか? フィーリングの問題だと突き放すというお手本を日本大企業トヨタは示してくれた訳だが、その結果が惨憺たる有様になったことは火を見るより明らか。実際に、その真実が「フィーリングの問題だった」としても、これは正しくないのだ。それはクレーム処理ではないと。

 まず、ここをスタート地点とする。

 考えてみよう。

クレーム処理はチャンス



 ECサイト店長のような仕事をしていると、クレームというのは必ず発生する。

 トラフィックにもよるが、穏健な問い合わせまで数に入れれば、百件の購入に一回ぐらいだろうか。なので販売単価一万円のECサイトで月商一千万円だとすれば、月に十件ぐらいはクレーム処理をすることになる。

 実際にはもっと販売単価が低かったり、もっと規模が大きい数人のチームのECサイトで、クレーム担当が立っていると言う状況だったりするので、もうちょっと件数が多いものであるが、せいぜい日に十件ぐらいにしかならない。

 そういうと、思いのほか少ないと思うかもしれない。

 実際、お客というのは、何か腹が立つことがあっても、わざわざ文句を言ってくることは少ない。なんと言ってもお客はわざわざ文章を書いて、それをメールで送ってくるわけで、そんな面倒な事をするよりも、ほとんどのお客は二度とその店を利用しないことを選ぶ。

 ECサイト人間が最も恐れるのは、この何も声を発せずに立ち去っていくお客で、むしろ声を上げてくれるクレーマーはありがたいお客なのだ。

 また、楽天系のECサイトでは、マントラのようにクレームはチャンスという言葉が流布されている。クレームをわざわざしてくれる人に懇切丁寧に対応することによって、そのクレーマー重要顧客に変わる、というマントラだ。

 実際の所、わざわざクレームをしてくれる行動的なお客は、味方にし優良顧客に転換できれば、知人に積極的に宣伝をし、お客がお客を呼ぶ状態に持ちこめる確率が高い。つまり、クレーム処理でたった1人のクレーマーに適切に対処すれば、優良顧客の打ち出の小槌になる、そんな寸法なのだ。

クレーム処理でまず目指すべきゴール



 クレームとはこんな状況である。

 自社のサービスを利用したお客が、

 支払った金額 or 労力の、

 結果に納得がいかず or 結果が想像と全く違い、

 怒って文句を言う or その状況を改善しようとする or 助けを求める

 こうみてみると、クレームとは顧客の中で発生している問題であることが分かる。

 一見すると、お客は「プリウスには欠陥がある」と怒って文句をつけるので、焦点が「プリウス」にあるように見える。このときに自己防衛的に「いや、プリウスには何ら問題がない」と言ってはいけないのである。

 なんたって、これはお客の中で発生しているのだから。

 クレームは商品に発生してるんじゃない、顧客の中で起きてるんだ!

 これを呟いてから、クレーム処理はしたいものだ。

 そしてこう説明してみれば、分かるように、ゴールは商品に何ら欠陥がないことを証明することではない。お客の中で発生している「理不尽な思いをした」という心をなだめ、そこで発生している問題を解決するところにあるのだ。

 しかし、このように書いてくると、かなりDQNなお客に引きずり回されるイメージがわいて来るだろうが、そうではない。クレーム処理をしながら、クレーム担当は、そのお客がいるお客か、いらんお客なのかを冷静に見極める。そして、こちらが誠意を持って対応してもどうも意味がなさそうだと判断すれば、さっさとそのお客は切ってしまう。

 クレーム処理とは一種の投資みたいなもので、その投資に見合うリターンが貰えそうにないのであれば、商売なのだから、もう二度とこの店にはやって来ないことを覚悟して、いいようにあしらって(文句が出ない程度には丁重に扱って)出ていって貰う。

 とはいっても、本当に真の意味DQNなお客というのはほとんどいない。

 大抵は、丁寧な対応をすれば、それに見合った態度を取るようになる。

 困るのは、この真のDQNと優良顧客に転換できる普通クレーマーは、しばらく対応をつづけないと、どちらなのか判断がつかないところにあるのだ。

 そして、モンスターペアレントとか、パワークレーマーなどと言われる人々が増えているように見えるのは、この真のDQNが増えているのではなく、適切なクレーム対応が出来ていないことが原因であるように思う。

基本的にクレーマーは誤った認識でいる



 よくクレームにまつわる話で、あり得ないほど変な怒り方をしているクレーマー馬鹿にする本などを見る。これは実のところ、クレーム対応に失敗し、お客を烈火の如くに怒らせてしまい、そのあげくにクレーマーがあり得ないことを言い始めなければならなくなってしまった典型例であるので、実際の所、笑われるべきはクレーム対応者である。

 たとえばECサイトで、お客さまが商品が買えないと怒っていたとする。

 ものすごい怒りようで、孫の誕生日にこの商品を送ってやるつもりだったのに、いったいどうしてくれるんだ、責任とれ! と来ていたとする。でよくよく調べてみると、そのお客は会員登録をしておらず、それであるならば当然に買えるわけがない。そうお客に告げると、会員登録はしたという。いや、してませんよ、いや、した。禅問答である。

 この事態の真相は、このお客は会員登録フォームから会員情報入力したのだが、メールアドレスに対して送られた認証用のURLクリックしていないので、正式な会員にはなっていないであったとする。

 このとき、

「というか、メール認証しないと、正式に会員登録が完了しないって書いてあるじゃんwww」

 と笑ったり、

「というか、ヘルプぐらいみろよwww」

 とお客を馬鹿にするクレーム担当がいたとすれば、ECの現場では張り倒されるだろう。

 このときの正しい態度は、もしかしたらメール認証って言う言葉意味が分からなかったのかもしれない、ひょっとしたら会員登録が済んだと誤解させる何かを見せてしまったのかもしれない、であって、顧客を笑うことではない。

 基本的にお客というのはプロである販売員よりも、持っている知識が圧倒的に少ない。

 たとえば、「プロバイダメールのみ登録できます」という言葉意味が分からないお客というのは、かなりの確率で存在していると思われる。

 たとえこちらはそのサイトシステムデータベースから、何から何まで知っていたとしても、顧客からは完全なブラックボックスであり、少なくとも状況が全く分からないという事はお客を不安にさせる。

 お客が不安を覚え、クレーム担当が適切な対応を取らず敵対してしまえば、お客は疑心暗鬼になり、もう何を言っても信じなくなるだろう。

 これはプリウスに起こったことだ。

 プリウスABSのことを確かにトヨタ人間は熟知し、何が原因であるかを的確に把握していたであろう。しかし、お客からみればそれはブラックボックスで、不安の原因であり、フィーリングの問題だと一方的にお客のせいにされれば、もう態度は硬化し、いくら説明をしても「嘘をついている」になってしまう。

 完全な敗北だ。

 そうこれが、クレーム担当の敗北であることは明らかだ。

 クレーマーは基本的に間違っているのだ。

 これは事実である。

 少なくともトヨタ人間ほどにはABSの事を知らない。

 しかし違うのである。

 クレームは商品に発生してるんじゃない、顧客の中で起きてるんだ!

 まずはここがスタートなのだ。

 (つづく)

 http://anond.hatelabo.jp/20100211223843

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