駅前や路上で歌うロックなフリーターがいた。ロックを知らない僕から見ても、彼はロックだった。
いらっしゃいませーとか、ありがとうございましたーという挨拶ですらYAZAWAみたいだった。
いらっしゃませェィェァァッみたいな感じだった。ィェァって小声で言ってた絶対言ってた。
彼は今まで引きこもり体質の僕の周りにいないタイプの人だったので、妙に惹かれるものがあり(恐らくカリスマ性ではない)
僕は彼と積極的に同じシフトに入った。
彼とのアルバイトは刺激的だった。
彼は金髪で、コンビニの制服の上から懐中時計(洋画で爺さんの形見にもらいそうなアンティークなヤツ)をぶらさげ接客していた。
時折スライドする蓋を開き、目を細め見つめるので、本当に大切なものかと思ったが、レジにガンガンあててたので恐らく違う。まじうるさい。
指にはシルバーアクセを付けていた。絶対三ノ宮の路上で黒人から買ったヤツだと勝手に思った。
そんな個性的な彼なので客やバイト仲間との衝突も多々あったようだが、やはり人を惹きつける魅力があるのだろう。ぼくもその一人であるように。
ある日、一人でレジをしていると鈴木さりな風のおねーさんが照れくさそうにノートの切れ端を渡してきた。
「これあの金髪の人にわたしといてーww私のメルアドwwwマジうけっしょ?」
愛想笑いをして受け取ると
「は?お前笑うなよキメェ」
みたいな事を言われて僕は歯軋りをした。すごく悔しかった。悔しかったから、勝手に二十歳そこらでヤンキーと結婚して、
お金無いのに子供を産んでクレジットカードとか考えも無しに使って、
多重債務者になって闇金に手をだし泥沼にハマり最終的にソープとかに売られて不幸になるんだし許す、とその場は自分を宥めた。
後日
「あー悪い、俺そーいうんじゃないんだわ」
ファックなことに、この人ロックだった。
「でもかわいらしい感じの人でしたよ。じゃあこれ、どうすんですか?」
「捨てといてー」
「じゃあ捨てときますねー、やっぱ細野さんレベルになるとしょっちゅうある事なんですかね」
といいゴミ箱にその紙を捨て売り場に出た。
フリをして事務室の小窓から覗き見る。僕は器の小ささには自信があった。
細野さんはそれを気にかける様子もなくブラックコーヒーを飲んでいた。
僕は彼のロックに感服した。
それから間もなくして、この、知れば知るほど面白い人を質問攻めにしてみようと企てた。
バイト終了後、事務室に細野さんが入ってきて先に休んでいた僕におつかれーっと一礼してくれた。
「林くんてそんなん飲んでるんだ。俺ブラックしか飲まねーわ」とニヒルに片方の口角を歪める。
さすがの刺身とか食べるときワサビの量ハンパない僕も、この昨日2時間しか寝てねーwみたいな中学生自慢にたじろぐ。
「すんませんまだ味覚がガキで、やっぱ細野さんは小さい時からブラックなんですか?」
何とか立て直す。我ながらうまい、このまま幼少期の細野さんの話にもっていき、それから今のHOSONOまで質問攻めにしようという流れ。
きっと自分語りが好きなので、一回話し出したら止まらなく――
「俺、小学生時代はヒザまで髪伸ばしてたわー教師まじうぜ」
僕の妄想をさえぎってさりげなくとんでもないことを言った。
「まじですか……ヒザって……紫式部じゃないですか……」
というと彼は満足げな笑みを浮かべて言う。
「そんな感じ?」
紫式部が気に入った様だった。
続いて
「その懐中時計かっこいいですね、なんかアンティークっぽくて高そうだし……」
「あー、1900円だったよ?」
「あー」
「ど、どこで買ったんですか?」
「サティ」
「サティ」
「あー、服は?」
「イオン」
「あー……近いっすもんね」
「まぁ」
「シブイっすよ」
「そんなんじゃネーけどw」
ロックだった。
所謂悪い例には漏れのない劣等性は、ぼかーゆとり教育の産物なんですってスタンスでどんどん落ちていった。 春とこのセンセイはあけぼのらしい。デブな国語教師は職員室で汗とツ...