と、来て数秒後に撤退の意思が芽生え始めた俺の後ろで、蝶番が無かったら吹っ飛んでいたんじゃないかという勢いでドアが開いた。
「やあやあ遅れてすまぬでごわす皆の衆! 捕まえるのに手間取ってしまったでごわすよぉ」
この角度からはまだ見えないが、ハルヒの後ろに回された手の先には誰かが居るようで、お菓子研究会に来る前の俺の想像通り校内のどなたかを部員にしようと無理矢理連れてきたようだ。
一応の詫びを入れたハルヒは極上の笑顔でその人物共々部屋にズカズカと入っ
地響きがする――と思って戴けたら、こちらとしても甚だ幸いである。
ただし、ここでいう地響きとはしつこいようだが地殻変動の類のそれではない。
――以下略。
……俺は一体何の呪いを受けちまったんだろう。
今度は、身長こそハルヒほどではないにせよ体型としてはハルヒを上回りかつ例のごとく矛盾輪郭の持ち主の少女だった。
しかもその不思議さ加減ときたらとてつもない美少女に見えるくらいであった。
「な、なんでごわしゅかぁ? ……(もぐもぐ)……ここ、何処でごわしゅかぁ?
(もぐもぐ)……な、何でウチは連れて来られたのでごわしゅかぁ? ……(もぐもぐ)」
右手左手の全指間にまるでパン屋の無敵看板娘のごとく携えられた焼き鳥であった。
形状から察するに最寄りのコンビニで売られているものであろう。怯えながらも次々と平らげていくその食い意地は立派だと言わざるを得ない。
というか例のごとく声がやたら野太いのであんまり深刻そうな感じがしない。
とにかく、だ。この状況がつかめず半泣きで不安げに震えている(そして焼き鳥は右手の分を食べ終わり左手に突入した)美少女さんと呆気にとられている俺を尻目に、
ハルヒは何故かドアに錠を施した。
「なっななな、なんで鍵をかけるんでごわしゅくうぐっげっほげほげほ、ふぅ……あ! そ、そうでごわしゅ! 一体何を、」
「黙らっしゃい」
ハルヒのドスの聞いた声に、むせつつも抗議しようとした少女はビクッとして固まってしまった。
「紹介するでごわす。朝比奈にくるちゃんでごわすぅ!」
そう言ったきり、ハルヒは黙り込んだ。紹介、終わりかよ!?
親友の思い人を好きになってしまったという告白を陰に潜んでいた親友本人に聞かれていたことがばれた様な空気が部屋を包み込んだ。
ハルヒは砂漠の国を救った海賊達のような笑顔で突っ立ったまんまだし、
長門湖は相変わらず無反応でお菓子をガサガサポリポリやってるし、
朝比奈にくるとかいうらしい美少女(下世話なことだが親ももうちょっと考えて名前をつけたほうがいいと思う)は今にも泣きそうな顔で最後の1串をはもはも食べながらおどおどしてるし、
誰か何か言えよと思いながら俺はやむを得ず口を開いた。損な性分だ。
「まず訊く。どこから拉致ってきたんだ?」
「人聞きの悪いこと言わないでほしいでごわす。任意同行でごわす!」
……似たようなもんだ。
「2年の教室でぼんやりしているところを捕まえたのでごわす。おいどん、休み時間にはいつも校舎を隅々まで歩くようにしてるゆえ、
彼女を何回か見かけていて、覚えていた――というわけでごわす」
休み時間に教室にいないと思ったら、そんなことをしていたのか。トイレの個室で御筥様をやってなくてよかったというかなんというか……いや、待てよ。
「じゃあ、この人は上級生じゃないか!」
「? それがどうかしたでごわすか?」
一点の曇りもない目だ。本当になんとも思っていないらしい。
「んぁー……まあいい。で、えーと朝比奈さん……か? 何でまた、この人なんだ?」
「まぁまぁ、見てみるでごんす!」
ハルヒは指を朝比奈にくるさんの鼻先に突きつけ彼女の決して小さくはない肩をすくませて、
「めちゃめちゃ可愛いうえにごっついでごわすよ!?」
というかごっつさならお前とそして長門も相当なんだが。いい意味で。
「おいどん、『ガチムチ』というのは結構重要だと思うのでごわすよー」
…………は?