【政論探求】ホテルのバーがなぜ悪い
麻生太郎首相の「高級ホテルのバー通い」がなにやら政治問題化している。これのどこが悪いというのか。
どうやら特定の記者がしつこく追及し、これをほかのメディアも伝えているというのが実情らしい。こんなことが政治報道の軸になってはたまらない。
筆者などが政治の現場で走り回っていたころは、こういう特殊な記者がいたら、よってたかって成敗したものだ。国民に知らせるべき肝心の政治取材が阻害されるからだ。
まして、いま、政治の最大の焦点は100年に一度といわれる世界的経済危機と国内政局との関係にある。こういうつまらない質問で首相を煩わせていいのか。首相にただすべきことはほかにいくらもある。
このコラムでも以前、首相就任前の麻生氏が夜の会合を終えてからなじみの酒場に毎晩のように顔を出すことを紹介したが、これは、気力、体力の充実ぶりを示すものとしての話だ。失礼ながら、あのトシで酒場に精勤するというのは、なまなかのことではない。
麻生首相の場合、一日の最後に好きな葉巻と酒でリフレッシュすることと、重要人物との密談が目的という。首相のライフスタイルと情報収集の邪魔をしてはいけない。
かつて政治家の夜の密談場所としては料亭が通り相場だったが、料亭そのものがめっきり減った。ホテルのバーなら料亭よりも格安だし、ロビーがあるから記者たちが待機する場所にも困らない。
それを庶民感覚と結び付けて報じるのはどういう神経か。首相が一杯飲み屋に通っていたら、この方が問題だ。警備も大変だし、一般客に迷惑をかける。
筆者の現役時代は料亭の前で待った。出口のまん前に車を止めてさっと乗られてしまうから、つかまえるのが厄介だ。表向きの会合だけならいいが、ときに「カゴ脱け」をやられる。別の部屋に本来の密談相手に待っていてもらい、会合を中座して会うというものだ。だから、会合の一群が帰ったあと、電柱の影でしばらく待つということもやった。空振りも多かったが、要人たちの密談取材は体力勝負でもあった。
首相がホテルのバーを利用していることがニュースになるというのでは、政治報道の「劣化」を意味するのではないかと気になる。(客員編集委員 花岡信昭)