2008-07-18

僕が考えたあの人のお昼休み

目の前の牛丼の並を眺めながら、俺は自分がすっかり年老いてしまったことを改めて思い知らされる。昔はもっと自分に食欲があったはずだよな、と思いながら紅生姜に箸をつける。箸を持つ手の力も衰えた。まあ、人生というのはそういうものなんだろう。毎日平日、決まりきったスケジュールを繰り返すうちに人は簡単に年老いていく。

俺の昼休みは他の人間よりも少し早い。正午を過ぎてからがお昼休みという感覚は失われてしまった。今日これからやるべきことを振り返る。職場では慣れない空気に緊張して固まりきっている新人が今頃スタンバイしているのかもしれない。俺はずっとそういう奴等に言ってきた。「反省するな」。その時その時の出来ることを普通にやっていれば身体が慣れてくる。仕事は頭で覚えるもの、勉強して覚えるものなのは確かだ。でも実地で経験を積んでみないと分からないことは一杯ある。いちいち後悔して萎縮しないで、どんどん自己主張していけ。ここまで真面目なことは俺のキャラクターとは違うので言わないが、勘のいい新人ならすぐ分かるはずだ。

そう言えばここ最近あいつらを食事に誘っていない。家に招いて俺の手料理カミさんと一緒に食べてもらおうか、と思う。

自分のやっていることがどれほどの意義があるのか俺にはよく分からない。何か特別なことをやってのけようという気はさらさらない。ただいつもと同じように、やれることをやるだけ。肩の力を抜いて、特別なことをしようとせず進行するスケジュールに従ってその場その場で調節しながら、俺が前に出て行くのではなくてあいつらを見守り、フォローする。そんなことを俺はもう20年以上やってきたのかと振り返って考えてみると、まあ何だってやっていれば何とかなるもんだよな、と思う。

感慨に耽り過ぎたようだ。そろそろ職場に戻ろう。

そして職場の控え室で俺は、トレードマークサングラスを取り出す。このサングラスも何代目だろうか。今日着ているのはオレンジ色のポロシャツと白いチノパン。安上がりな衣装だ。俺が目立ってはいけない。脚光を浴びさせなければいけないのは、これからを背負っていくあいつらなのだから。

出番が来たようだ。ADに呼び出されて俺は舞台袖に立つ。

テーマソングが鳴り響く。今日リラックスしてこの時間を楽しもう。


How Do You Do ご機嫌いかーがー ご機嫌ななーめはまーすぐにー

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