2008-07-07

空気的な彼女

二年前、旅先で知り合った女の子。遠くに住んでるけどちょっと気になる存在だった。彼女は無口で気まぐれな性格で、たまに連絡を取り合うだけの仲だった。半年連絡取らないこともあった。それが先月、急に話が盛り上がって彼女のいる町に遊びに行くことになった。彼女仕事終わりに会って楽しくご飯食べた。久し振りに会ったら髪が伸びてた。いや、この2年間、何度も切ったと思うけど。

それでご飯食べて店出たら何も言わずに着いてくるの。もう一軒行く?と聞いたけど、反応はない。ちょっと歩く?と聞いたら、「うん」と小さくうなずいて後ろをついてきた。だけど初めての町で道がわからない、しばらくうろうろしたあと「そろそろ終電だろ、俺あのホテルだから。」と言ってみると、歩道彼女が固まった。そのとき、なに考えたのかはわかった。ただ、そうであってほしくない気もした。大事に扱いたかったし。でも固まったままの彼女を融かす言葉が他に見つからない。これ以上ないわざとらしさを込めて「部屋で話でもする?」と発音してみた。

結局その日は3回愛し合ったけど、彼女は一度も音を立てなかった。声を漏らすこともなかった。だけど、暗い中でじっと見られてるのを感じた。この静かな様子は、きちんとこちらに向き合ってくれてるような気がした。

翌日、近くの町を観光した。二人で電車に揺られててもあまり会話はなかった。彼女は周囲の空気を音や声で埋め尽くさなくても、自分で満ちるときに満ちてるのかもしれない、と窓を見ながら考えてた。いや、それは都合よく考えすぎで、実は話題がなかなか見つからなかっただけかもしれない。

その日の夜、家に戻ってから電話した。次の晩も電話した。内容はとりとめのないことばかりで、長い沈黙も何度かあった。また3日後に電話して更に一週間後に電話した。少し沈黙が増えてきた。なかなか電話できないことを詫びると「いい、大丈夫...」と彼女は言った。

また一週間後電話した。しかし彼女は出ない。その晩遅くに短いコールバックがあったけど僕は取れなかった。翌日改めて電話したけど出なかった。翌々日留守電サービスに切り替わるのを何度か聞いたとき、彼女は出れないんじゃなくて、もう出ないのかも、と気づいた。

うすうすわかっているけど、それでも電話をかけてしまう。彼女は出ない。メールで今度また遊び行くからと伝えても返事は来なくなった。かといって、あきらめることはできない。彼女の近くに行って彼女の近くにいれば、またなにかの続きが始まるかも、そういう願望のせいで僕は行く方向しか決まってない旅行を申し込んだ。出発までもう一週間を切った。まだ連絡はない。

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