キョウコはいつも自信に満ちていてとても美人なクラスメイトだったから、私はとても憧れていた
キョウコは髪が生まれつき茶色で、色白で、瞳の色も薄い茶色をしていたから
暇なクラスメイトたちが、父親が日本人じゃないとか母親がガイジンと浮気して出来た子だとか
中学生らしい胡散臭い噂を毎日こそこそと、でもキョウコに伝わるように話していた
それは酷く不快な噂のはずなのにキョウコはちっとも気にしていない素振りで毎日笑っていた
避けては通れない授業参観というイベントが9月のある日に実施された
冴えないクラスメイトの親の中に、キョウコに良く似たとても綺麗な女性がいた
けれど皆の視線を集めたのはその美しい容貌ではなくて、サングラスで覆われた瞳と車椅子と言う姿だった
デリカシーの無い男子が指を指してヒソヒソと話し、それをクラスのリーダー的役割を担っていた女子達が制した
けれどその女子たちも実は興味津々と言ったカンジでちらちらとキョウコの母親を盗み見ていた
それとは対照的に、キョウコは決してその姿を見ようとはしなかった
国語の授業が始まり、淡々とそれでも父兄をやや意識しつつ担任が進行する中で
たまに教室に響くキィキィと言う車椅子の音がとても重く感じられた
なにがどうなって、キョウコの母がああいった姿になったのか
病気なのか、事故なのか、もしかしたら生まれつきなのか、そんなことはまったくわからなかったけれど
むくむくと膨れ上がる好奇心と、奇妙な罪悪感に、あの時クラス全員が支配されていたのだと思う
先日、同窓会の出欠を問う葉書がポストに届いているのを見つけて
その時私は15年振りにキョウコのことを思い出した
栗色の髪の美しい少女
キョウコがいた、あの日の授業参観のことを
キョウコは今何をしているのだろう、そしてあの母親はどうしているのだろう
キョウコは同窓会に来るだろうか
来たらまず何て声を掛けよう
そんなことを思いながら「出席」の文字に丸をうった