今日の午後6時頃のことである。
私の携帯電話に着信があった。
携帯電話が鳴ることは珍しかったので、
知らない番号なのにも関わらずに出た。
『もしもし、俺だけど』
――・・・・・え、誰?
私はその状況に動揺していたので、
名前を聞くことを忘れてしまった。
『もう少ししたら着くから、外出て待ってて』
そう言って電話を切られてしまった。
電話番号を見てみるが、
やはり見たことのない番号だ。
電話帳には入っていない。
果たしてこの人は誰だろう。
なぜ私の電話番号を知っているのだろう。
というか本当に来るのだろうか。
そんなことを悩んでいるうちに、
家の前に車が止まった音が聞こえた。
部屋の窓から覗いてみたところ、
見知らぬ赤い車が止まっている。
私はここまでしても見当がつかなかった。
ずっと家の前で待たせると面倒なことになるので、
携帯電話と財布だけを鞄に閉まって、
恐る恐る助手席へ乗りこんだ。
その瞬間話しかけられた。
『元気だった?』
――どちら様ですか!!
ここまで至近距離でも全くわからないということは、
赤の他人なのだろうか。
もしかしたら親戚?それとも友人の友人?
頭の中は?マークがぐるぐるしていた。
車の中での出来事は緊張やら混乱やら不安やらであまり覚えていない。
しかし24歳でO型だとか、
プロポーズしたけれど振られただとか、
教師になりたかったけれど止めただとか、
そういう他愛もない会話をしてくれたことは覚えている。
――約30分後、
いつのまにかレストランに着いた。
どうやらここで食事をご馳走してくれるらしい。
ここまで来て拒否するのも勿体ないと思った私は、
申し訳ないと思いながらも食事をいただくことにした。
食事を待っている間、私は名前を聞くべきか迷った。
この不信感を取り払うのためにも名前を聞くべきだと思ったが、
レストランに連れてきてもらって、
今更「Who are you?」というのも失礼な気がする。
なので私はそれを避けた質問をしてみた。
それでも男はあまり自分のことを話そうとはせず、
私の話を引き出そうとしているようだった。
話を聞いても思い出せない。
――お腹がはち切れるかと思いました。
食事が終わって男にどこへ行きたいか聞かれたので、
私は家に帰りたいと言った。
すると男は笑って、わかりましたと言った。
私はこの時ずっと心の中に留めておいた質問をしてみた。
『あの、私あなたが誰だかわかんないんですけど』
男は『だろうね』と言った。
『名前は?』
『・・・言えないなー』
『親戚?』
『さぁ?』
『友人の友達ですか?』
『さぁね』
何を質問しても誤魔化されるので、もう諦めた。
私が黙り込んだのを見計らったのか、男は言った。
『×××(私)ちゃんは俺のこと知らないだろうけれど』
『俺はずっと昔から知ってるよ』
『十何年も前から』
――何このホラー。
無事私を家まで送っていただいた。
『ごちそうさまでした。気を付けてくださいね』
私は疑問を抱えたまま車を降りようとした。
すると左腕を掴まれた。
(本音を言えば、この時殺されるのかと思った。)
沈黙の中で男は何か言いたげだったが、
『お元気で』と言い残し、
私は車から出た。
そのまま振り返ることなく家の中へ入った。
――そして今に至る。
※知らない人に着いて行っちゃいけません。
何が怖いって増田が知らない人にノコノコついて行くことが一番怖い
まさかとは思いますが、この「俺」とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか
車に乗り込む前に、 「どちらさまですか?」 『・・・言えないなー』 「そんな人にはついていけません」 だろ、普通は。
普通って何だろうな