2010-07-26

せんせい

嫌な先生だった。

特定の生徒に対しての贔屓と差別日常茶飯事だし、

躾と体罰の名目で暴力行為は振るいまくるし、

そのくせ親に対しては良い所を見せる演出ばかりしていた。

俺はこれまでの学生生活全てを含めてあの先生が一番嫌いだった。

その先生自殺したとの訃報が、かつての同級生から伝わってきた。

動機は様々な噂が錯綜していて定かではないが、方法は首吊りだという。

学生時代、いつも「死ねばいい」と怒りと怨みを込めて念じていたし、

同級生と文句と悪口を言い合えば、それだけ数時間は過ごせるほどだったし、

一時などあまりにも憎悪が募りすぎて、本気で殺害計画を考えたこともある。

その先生が死んだという。

なんという良い報せ。

心が躍った。

これは葬式に参列して、是非とも死に顔を拝まないとな。

連絡があった翌々日、教えてもらった場所に赴くと、けっこうな参列者がいた。

同級生の面々が少なからずいた。

みんな沈痛な表情で、中には涙ぐんでいる者もいた。

共に先生の悪口を言い合った奴も泣いていた。

どうせこの場ではそんな風にもっともらしく涙を流せるし、死者を悼む言葉もでるが、

本心は違うくせに、後になったら散々悪し様に罵るくせによぉ、と鼻で笑いたくなった。

俺は線香をあげるべく棺の前にいった。

棺の中の先生記憶先生とはまったく別人のようにみえた。

こんなに小さく、みすぼらしかったっけ?

俺の脳天を定規で叩きまくってくれた手は胸の上で組まれていて、皺だらけで、何も傷つけられそうになかった。

拝んでやろうと思っていた死に顔は萎んだ干し柿のようだ。

なんだよこれ・・・。

誰だよこいつ・・・。

腹の中で嘲笑ってやろうと、あの頃の怨みを晴らしてやろうと、そんな考えでここにやってきた筈なのに。

悲しくなった。

合掌を済ませると話しかけてきた同級生を無視してそのまま自宅に戻った。

それで今、この文章を書いてる。

決して心から悼むことも、死を惜しいと思う気持ちもないけれど。

最後に一つだけ言いたい。

先生、どうか安らかに眠ってください。

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