2021-04-30

不要不急の落語力 【追記寄席、生配信やるってよ】

【追記】

この増田を書いたもの(不要不急の落語力https://anond.hatelabo.jp/20210430164235)ですが、トラバ&ブクマついてて嬉しい。みんな割と落語好きだったか。もしくはラジオ好きだったかそれとも両方か。円楽&伊集院落語すごい楽しみだけどどうせチケット取れないだろうから配信してくれないだろうか…と毎晩お星さまに祈っています。

それはともかく、落語好きな人はもうとっくに知ってると思いますが、明日5/3と、先明後日5/5に、鈴本演芸場、浅草演芸ホールの二つの定席がYoutubeで寄席の生配信をすることになったようです。

公式からの案内はこちら https://www.youtube.com/watch?v=woQRIp1OBSo (鈴本演芸場&浅草演芸ホール 席亭より皆様に緊急のお知らせ)

5/3 鈴本の出演者はこちら お昼の部 http://www.rakugo.or.jp/2021-5-3yoru.html 夜の部 http://www.rakugo.or.jp/2021-5-3hiru.html

5/5 浅草演芸ホールの出演者はこちら https://twitter.com/asakusa_engei/status/1388421098539085826/photo/2

4番組ともトリ(最後の出番)は大人気の落語家さんで増田も凄い好きな師匠です。木久扇師匠(黄色い人)は「それはそれ」の良さがすごいし、他3人、権太楼、喬太郎、一之輔はそれぞれ個性は異なりますがみんなサイコーです。他の芸人さんもはずれナシの良さ、当代の人気落語家&色物芸人さんがずらりと揃っています。家の中でヒマで、かつちょっと落語でも聞いてみようかしら、という人は、ぜひぜひ!

【以上追記おわり!】

東京の落語の定席寄席が、「必要不可欠だから自粛要請に従わない」→「やっぱり5/1から閉めます」に代わって、色々ホッとしている。大して炎上もせずに済んだなぁというのが一番大きい。去年は演劇界がすっかり大炎上したのでひどく心配をしていた。あとは何よりも、やはりクラスタ化したら終わりだろう(生命が終わりかねない大師匠がたくさんいる)と心配していたので。

まぁ色々あるんだろうが、この件についてしゃべっていたラジオを聞いていて、なるほど演劇は炎上したよなぁ…というのと、落語はさすが落語で、大炎上をうまいこと切り抜けたのかなぁという気持ちになった。

一つ目は「伊集院光とらじおと」4/29木のニュースコーナーでこの件を取り上げた際の伊集院光のコメント。

自粛要請の基準のあいまいさやアンフェア感について触れつつも「ここで折れるしかないんだろうな」と。番組アシスタントのワハハ本舗柴田理恵に話を振る形で演劇畑も被っている理不尽を示し(ワハハの舞台はダメだ鼻から豆飛ばすし)、そして「言い方なんですけど」と前置いたうえで、彼の師匠である円楽の言葉として「落語家ってのは必要のない仕事だってことを悟られるんじゃない」と言った。そして、今は我慢しよう主張があるとしたら選挙に行って表すしかない。さらに落語家は今の時期に頑張って良い落語を作れ「まんぼうこわい」とか、と全方位性のコメント力を発揮。さすがラジオの帝王である。

更に、いやー落語だなぁとしみじみしたのだが、ゲストコメンテイターの元経済記者(軽部謙介氏)が、国の判断は常に正しいというわけでもないのだし私権の制限ではあるから自粛が嫌なら裁判を起こして法の下で主張すればいいのに何故そうしなかったのか、と投げかけた後の伊集院さんの答えだ。

落語界として言うべきことを言う必要性、と同時に世間の中にある芸だから落としどころも必要だったんだろうと。その時の彼の言葉の選び方がとても繊細で良かった。「落語というやわらかい世界のことでもあるんで」と言った。このやり取りは予定調和的なところもあったから、私は、近代の法に基づいたスクエアな世界とは真逆ともいえる「落語的な帰結」を、伊集院さんがどういう風にしゃべるのだろうと思いながら聞いていた。例えば、お笑い界とか落語界とか、それこそ不要不急の世界で、とか、色々言い方はあるかなぁと思いながら聞いていて、「やわらかい」という形容詞が入ったことにうっとりと感服したのだった。

もう一つは、時間が一日さかのぼって4/28水、同じくTBSラジオのたまむすび。若手の師匠方では一番人気の春風亭一之輔の月イチコーナーでのことだ。

毎回、マクラを披露しながら落語を一篇紹介するというコーナーなのだが、もともと一之輔師匠はお決まりのマクラよりも日々の雑談をマクラ化するタイプの師匠なので、大体は近況報告的な話になる。この日に紹介した落語は「あくび指南」。金を払ってあくびのお稽古をするという落語の中でも相当バカバカしいタイプの噺で、一之輔師匠の「ザ・不要不急落語」という紹介の仕方がぴったりだ。その不要不急つながりでマクラとして寄席連が自粛要請を蹴ったマクラを始める。

ネットニュースのコメント欄でさすが落語は粋だのと褒めそやしてるが、やめたほうがいいですよ、これは屁理屈で、社会生活の維持ではなく「我々の」生活という言葉が入ってるだろう、と。そして緊急事態宣言が出てからの方が寄席の客入りが多い、野次馬が増えたから、野次馬が増えてゲラゲラ笑っていくという話を飄々とする。シニカルだけど面白い話ぶりが一之輔師匠の良さである。文字にすると私の文字力が低く、感じが悪くなってしまったが、しゃべりは飄々とかつ愛嬌もあってとても良い。インターネットの論調や寄席に駆け付けた野次馬たちに対しても思うところもありそうだが多くは言わず、正論で「よし!粋だ!」みたいに言う風潮を、ちょっとこう、コチョコチョとくすぐりたかったのかなーと思いながらニヤニヤと聞いていた。

そのあと、志らく師匠が別のラジオで言っていたという言葉を紹介する。「落語ってのは、あっても無くてもいい商売と言うが、なくても無くてもいい商売なんだから、寄席が社会生活に必要なんて言うのは野暮じゃないか」。

志らくはワイドショーとtwitterはアレだが落語については割とまともなことを言うよね、と思いながら聞いていたら一之輔師匠はさらに「寄席に出てないくせに言うなと思ってね」と続ける。落語立川流はまぁ色々あって、今回の自粛騒動で声明を出した定席には出られない。これは東京の落語界で大昔に起きた分裂騒動とその余波でもある立川談志の独立一派設立が原因で、このあたりの話をマクラでコスることがある師匠と全く話さない師匠がいるのも、いかにも落語っぽくて味わい深いのだが一之輔師匠はコスることがあるタイプの師匠である。分裂騒動が起きたころはまだ生まれてもいない若い師匠なのだが、そういう騒動も含めた落語らしさや寄席の空気が好きなのかもしれない。

話がそれたが、その後は一之輔師匠がその昔、入門する直前に見た、真打昇進したての喬太郎、のちに最期のトリとなった志ん朝がそれぞれトリを取った末廣亭の様子の話をしていた。この話がまたとても色んな含蓄がある話なのでぜひラジコタイムフリーなどで聴いてほしい。というのも、このタイミングでちょうど、定席たちが「やっぱり自粛します」と前言撤回したニュースが入ってきたからというのもある。その時の師匠のやっぱりね感がたっぷり入ったぐずぐずぶりがすごい面白いから。

図らずも自粛騒動で、翌日の伊集院ラジオと合わせて、落語の落語らしさというか、落語の落語たるゆえんをラジオで堪能した。やわらかくて、屁理屈言いで、すぐ手のひら返してたりして、粋で、粋じゃなくて、それぞれ手前勝手で一人一人独立してるけど「落語み」は共通して持っていて、何よりも不要不急で、そして何か面白い。

立川流が定席に出られなくなった理由を作った故・立川談志は、落語は人間の業の肯定である、と言ったらしいね。ああ早く落語を生で聞きたいな。業を肯定したいヨほんと。

記事への反応 -
  • 落語愛に溢れた増田を見た。

  • ほえ〜落語のことなんも知らないけど、なんかいいなって思った。おすすめの落語あったら教えて

    • とりあえず元増田にも出てきたし一之輔のあくび指南が公式チャンネルにあがってるから聞きなさいよ 当代きっての人気落語家よ 面白いよ

  • いいこと書いてあるようなのだが、落語家を「師匠」と呼ぶタイプの素人はあんまり信用できない。より正確に言えば、それを第三者に読ませるための文章の中に盛り込むタイプの素人...

  • 「選挙に行って表すしかない」 そうはならんやろ

  • あちこちの業界に「強い要請」が入ってるみたいだけど要請の中身が気になる

  • どの落語家も、なんだかんだと講釈たれやがるけど、芝浜、短命、死神、駱駝てな鉄板はやるし 誰のを聞いても話の筋は変わる訳じゃねぇんで、どれか一回聞けば十分てなもんで、似た...

    • 豆腐屋になったはずだよお富さん

    • 俺も似たように思っていたが、生で観たら全然違う。上手く説明できないけど、とにかく違う。

  • 圓楽伊集院光の二人会はやれないのかなあ

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