周の武王が、殷の紂王を討ち、殷を滅ぼして新に周朝を創めてから間もなくのことである。(B.C.1046年頃)
周の威令は遠く四方の蛮夷の国々にまで及び、各地から貢物が献上されてきた。当時、西方に旅という国が
あったが、旅からも獒(ゴウ)が献じられてきた。獒とは高さ四尺に及ぶ大犬のことで、能く人の意を解す
という珍獣であった。この贈り物をまえにして、武王は大いに喜んだが、その時、召公が、珍奇なものに
心を奪われて、せっかくの周王朝の創業を危うくしてはならない、と諄々として武王を諫めたと伝えられる言葉が、
耳目に役ぜられざれば 百度惟れ貞し、
人を玩べば徳を喪い 物を玩べば志を喪う
山を為ること九仞 功を一簣に虧く