2011-10-18

閑雅な食慾 萩原朔太郎

松林の中を歩いて

あかるい気分の珈琲店(かふえ)をみた

遠く市街を離れたところで

だれも訪づれてくるひとさへなく

松間の かくされた 追憶の 夢の中の珈琲である

をとめは恋恋の羞をふくんで

あけぼののやうに爽快な 別製の皿を運んでくる仕組

私はゆつたりとふほふくを取つて

おむれつ ふらいの類を喰べた

空には白い雲がうかんで

たいそう閑雅な食慾である

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