私はネトゲ廃人で、完全に昼夜逆転し、授業にはほとんど出なくなっていた。幸い2年まではそこそこ真面目に単位をとっていたので、なんとか4年で卒業できたが、卒業時点では無い内定だった。翌年に奮起して公務員試験を受けて、今は地元の市役所でまったり働いている。
A君は鬱病で1年留年した。ただしその前に10ヶ月アメリカに留学していたので、留年はそのせいということにして就職活動を上手く立ち回り、中堅企業に滑り込んだ。
B君は違法薬物に溺れて学校に来なくなり、そのうち自主的に退学した。今では家族や彼女さんの奮闘のおかげで薬は断ち切って、実家の店を継いでいるらしい。
Cちゃんは卒業と同時に結婚して専業主婦になったけれど、間もなく離婚した。今は派遣社員として食いつないでいるらしい。
D君は二留が決まって退学した。その後、通信制の大学を卒業し、現在はブラック企業として有名な外食産業で働いている。たまに「死にそう」とツイッターで呟いているが、まあ、生きている。
E君は、仲間の中では一番普通の学生だった。よく部室で麻雀をやっていて授業をサボってはいたけれど、根が真面目なので要所要所では出席して効率よく単位を稼ぎ、そこそこ名の知れたIT企業に就職した。
仲間思いで、真剣になるべき場所と不真面目になるべき場所をわきまえている、一緒にいて楽しい奴だった。
そのE君が、自殺した。
何の前触れもなかった。いや、あったのかもしれないが、卒業してからは半年に一度程度しか集まって飲むことがなかったので、気づくことが出来なかった。
他の奴が死ぬならまだ分かるのだ。無い内定で卒業した私は、当時の精神状態からしていつ発作的に電車を止めてもおかしくなかった。A君は、鬱病だった当時、ODして死んでもおかしくなかった。B君は薬物の影響で死んでもおかしくなかった。Cちゃんは離婚したショックで自殺していたかもしれないし、D君は明日にも過労死しそうだ。
それなのに、なぜE君なのだ?
人間、死ぬ時は突然なんだなあという空しさと、気づいてあげられなかった罪悪感で、やりきれない気持ちになる。
きっとE君は、本当は誰よりも一番ダメな奴だったのに、私たちが先にダメな奴専用席を占拠してしまっていたから、ダメさを発散できなかったのではないだろうか。
本当に、心底ダメな奴だ。自殺するなんて、これ以上のダメな行動が他にあるだろうか。
こんな形で彼のダメさを知りたくなかった。もっと早くから、例えば酒を飲みながらダメ自慢合戦をしたかった。
私たちのE君はもう戻ってこない。だからせめて、今日まだ生きているE君の皆さんは、自殺する前にもっと別の方法でダメさを発散して下さい。少しぐらい道を外れようと、仲間はきっと、「ダメな奴だなー」と苦笑いしながら、受け止めてくれるはずなのだから。