音無が目を覚ますとそこには真っ白い天井が見えた。
規則正しく響く脈拍計の音。これは……点滴だろうか?
開かれた窓から風がたなびいてカーテンを揺らしている。
今度は、慌ただしげな物音。行き交う大勢の人々。
真っ白い格好をした人々。必死に声を掛ける人。お母さん……?
たくさんの人が音無に必死で話しかけるが動けず、声も出せない。
やがて音無は、自分が生きていて、病室で目を覚ましたことを実感する。
戸惑いつつ、それでもリハビリに励む音無は、
心臓が高鳴る。
動けない身体で彼女の元に急ぐ音無。
音無は必死にあの世界での出来事を天使に話すが、彼女はどうも困惑気味だ。
「あの……知ってる人ですか?」
記憶喪失でずっとこの病院の別の病棟に入院している患者なのだそうだ。
しかし抑えきれない音無は、必死にあの世界の出来事を彼女に話す。
自死とそれを選ばざるを得なかった運命を受け入れ、ついに彼を許し、天使になったゆりのこと。
巻き込んでしまった仲間たちと、仲間に裏切られ殺されたその運命を初めから受け入れていた日向のこと。
解散ライブで音楽だけは永遠に生きることを伝えようとしたあのバンドメンバーたちのこと。
そして、僕自身のこと。これから生きて……生きることで償い続けなければならない、罪のこと。
他にも、たくさん話したいことが、話さなければならないことがある。
言いたいことが多すぎて、うまく言葉が出てこない。
当然、天使の顔をした天使じゃない彼女にはさっぱり事情が理解できない。
だから、少女は言った。
「良かったね」と。
突然表情が変わり、動けない身体をむち打ってすがりつく音無に、少女は困り果てる。
「あの……ちょっと私もう行かなきゃならないんです」
……と言っても演奏するのは患者の人たちのコピーバンドなんですけどね。
わたし、それにどうしても行きたいんです! だから……」
遠くからかすかに聞こえるギターの音。
「いけないもうはじまっちゃってる! ごめんなさい!」
一礼して、音無の元を走り去っていく少女。
遠くから響く聞き覚えのあるイントロ。
それは、聞き間違えようがない……。
音無は、少女を追いかけようとするが思うように身体が動かずに転んでしまう。
必死の思いで起き上がろうとする音無を覆う影。
ふと見上げると、そこにはさきほどの天使の顔をした少女が手を差し伸べていた。
「あなたも好きなんですか? ガルデモ」
END