声を聞いたら泣いちゃうだろうなっていう人がいて、
姿を見たら、今どんなに幸せだとしても、苦しくなってしまうような人がいて、
何につけても、どんなに色んなものに囲まれていても、
その点をつかれると、ふいに切なくなってしまって、動けなくなって、
悔しくて、残念で、でも仕方なくて、叫びたくなる。歯噛みする。
その人がいなかったら、あの映画であんなに泣かなかった。
あの本を買ったりしなかった。
あの広告に足を止めなかった。
この先、どうにもならないけど、この先ずっと、そういうことはたくさんあって、
変な日常の欠片で け躓いては、一人ぐっとなったりする。
諦める だったり、
忘れる だったりってことが、
なんでこんなに、いつまでも動けないんだろう。
初めて人を好きになるその人を見ていた。
失恋する姿も、それをバネに初めて人に告白する姿も、見ていた。
初めて好きになった人に触れて、でもそんなことは口に出さなかったけど、
どこか少し静かに変わっていったその人も見ていた。
このままいくと、この先も見ていくのだろうかと思って、いつも怖くなる。
結婚して、子供と手をつないで、子供の反対側の手にはその人の好きな人がいて、
そういう風景をいつか見たりするのだろうか。
幸せなんだろうなと、なんとなく予想がついてしまう。多分。
それが嬉しいだなんて微塵も思いたくないのに、
泣き笑いみたいな顔しかできなくなりそうで、
なのに、気持ちは罵るより複雑で苦しくて、
好きじゃないなんてことは一生思えないのに、
好きでいいなんて一生認めてもらえなくて、
束ねても、どこにもやれなくて、しんどくて。
ふいによぎる「私を呼ぶ声」
それを思っただけで、もう、進めなくなる。
悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、悲しい。
悲しいけど、悲しむことしか、彼と私にはもうないのだと、それが悲しい。
関わっても、関われなくても、悲しいことしかないから、
せめて綺麗に生きていこうと思う。
外側だけでいい。
その人をこの先見つめている私の背が、綺麗に伸びて、悲しくても美しくあれるように。