今、私の部屋には一匹の猫がいる。
けれど母は突然あっけなく死んでしまって、だから私が引き取る事になった。
父はもう随分昔に死んでいたし私には兄弟姉妹はひとりもいない。親戚の類もいない。祖父母も当然いない、文字通り天涯孤独になった。
私と同じ名前の老猫だけを残し、母は死んだ。
母がどうしてこの猫に私と同じ名前を付けたのか、終ぞ聞くこと無く死んでしまったから真意は分からない。
母は愛情深い人だったけれど、その愛情はもしかしたら少しずれていたのではないか、そんな事を大人になってから感じていた。
彼女の我が子に対する愛情はペットへのそれととても良く似ていた。
素直で良い子、成績優秀、いつでも従順、そんな子を望み、その結果を私が出せば大いに喜び褒めたたえた。
けれど少しでもそれから外れようものならば、反抗する間も無く酷くぶたれた。時には足や物でも蹴られたし、それに対し泣きわめけば口を塞がれた。
それでも私は母を愛していた。
母は私が家を出た後、道端に捨てられていた猫を拾った。それが今、この部屋にいるこの猫だ。
私と同じ名前を付け、日がな一日撫でて抱いて溺愛していた。けれど自分の意のままにならない時、母は猫をぱちんと叩いた。
それが続くうち、猫は決して反抗をしなくなった。
されるがまま抱かれ撫でられ母が眠る時にはその布団に自ら潜り込んで喉を鳴らした。
この猫もやっぱり、きっと母を愛していたのだと思う。
母の亡骸を部屋に運び寝かせてから通夜を終えて運び出すまで、猫はずっと母の体にぺたりとくっつき丸まり離れなかった。
思えば、この猫は私の身代わりだったのだろう。
そして今、母に溺愛されていた私と猫だけが残った。
私たちはまるで双子のようだ。人の動きをじっと伺い顔色を見て行動する、とても良く似ていて滑稽。
もしかしたら私たちはうまくやっていけるかもしれない。
そんな事を思いつつ、ふと猫に目をやれば彼女は微かに首を傾げてにゃあと鳴いた。
ああ、そうか、今日は猫の日だったね。 http://ranking.goo.ne.jp/ranking/020/cat_cute/ 読みやすいテキストだったけど、何か物足りない。毒がないカンジ。「あたしは、あんたのペットじゃないん...