そのグループごとに登校していた。
分団長は6年生がやって、下の学年の面倒をみつつ、
二列を保持して学校まで登校する。
私は面倒見がいいわけでもなかったけど、生憎6年生が私しかいなかったから
分団の分団長をやっていた。
思い返せば、「長」なんてつく役柄があったのは、その時だけだった気がする。
そこには、4年生のA子ちゃんと、2年生になる私の妹。
そして、同じ場所に集まる男の子の分団にはAちゃんの弟で3年生のB君がいた。
ある日、A子ちゃんと、同じ学年のC子ちゃんが喧嘩になった。
喧嘩といっても、C子ちゃんが一方的に怒ってて、泣いていて、あまり喧嘩らしい喧嘩にはなってない。
4年生は人数が多くて、C子ちゃん以外はみんなA子ちゃんの味方、という感じだった。
A子ちゃんは静かで、言葉は少なかったけど、理論整然と話す子だった。
怒り心頭!という感じのC子ちゃんとでは収まりがつかない。
その日はC子ちゃんを先頭の私の隣に、A子ちゃん達を列の最後尾に並ばせて登校した。
C子ちゃんが不満そうに腕をさすっていたので
「どうしたの?」
と聞いたら、
「A子ちゃんがつねった」
と腕を見せてくれた。
小さな傷だったけど、赤く爪の跡が食い込んで、皮がめくれていた。
C子ちゃんはそれっきり、A子ちゃんや他の子と距離を置いていたので、喧嘩が起る事もなかったので、しばらく忘れていたのだけど、今度は私の妹がB君にいじめられた、と泣きついてきた。
薄情かもしれないけど、前は2つしか歳の違わない同性の話で、今度は自分の小さな妹だし、相手は(年下とはいえ)男だし、これはイカンと思って、B君に抗議した。
しかも、妹の手にはC子ちゃんと同じつねった跡がくっきり残っていた。
姉のA子ちゃんと違い、B君は本当に何も話せない子だった。
その時もウンともスンとも言わないまま、登校時間になって結局有耶無耶に終わってしまった。
ところが、数日後、家に帰るとB君がうちに一人で妹と遊びに来てた。
うちの妹はあまり女の子らしくなくて、兄の玩具なんかもあったからかもしれない。(実際男の子の友達が多かった)
気がよいのかすっかり忘れたか、妹は普通にB君と遊んでいた。
少し遊んだ後、B君が急に妹をいじめた事を詫び始めた。
その時に聞いた話が
・姉のA子にいつもいじめられている
・姉と母親は虐める時や怒る時に、いつも何も言わず自分をつねる
・姉は勉強も運動もできて、自分はかなわないし、やりかえせない。怖くて、やりかえすなんて考えれない
・妹は姉のA子に似ている
B君はその話を私と妹の前で悪びれもせずにした。
流石に妹もその話に嫌な気がしたらしく、(今でも覚えてるらしい)
その後も何度かB君はうちに遊びに来たけど
近づけないように避けたようだった。
それから、数年たって、母が子供会か、婦人会かなにかの役員になって、
近所の催し物の手伝いに駆り出された。
私は中学2年生になってた。
講堂を飾り付ける飾りを作る係の中に、A子ちゃんのお母さんがいた。
A子ちゃんのお母さんの顔は知っていたけど、話すのはそれが初めてだった。
飾りを作りながら、お母さんからA子ちゃんが小学校で何かの代表に選ばれた、と聞いた。
A子ちゃんしっかりしてますからね、と言ったら(正直お世辞だ)ものすごくうれしそうに、
静かに、A子ちゃんを延々ほめ始めた。
「あなたも大きな声で笑ったりしないで品性を持った方がいい」
「A子はお花をやっているから、品がある。あなたもやればいい」
ちょっとなぁ、と思い始めたらこんなことまで言いだした。
「A子が代表になれたのは、親がちゃんとしてるからよ?
それじゃあ、ねぇ…」
「徳がないと、だめ。
あなたは毎日お勤めしてる?ご先祖様をうやまう気持ちがないと、自分の身に降りかかるんだから」
(新興宗教らしい)
子供心に逃げ出したい!と思い、何か話題を変えるきっかけがないかと思っていたら、
A子ちゃんのお母さんが飾りを間違えて作ってることに気付いた。
「あ、それ、間違ってますよ~」
と、言った時A子ちゃんのお母さんは
「あら、いやだわ」
と、明るく言った。
けど、目が笑ってなかった。
そして、言うのと同時に、私の腕を思いっきりつねりあげていた。
「いたい!!!」
免疫のない私は、いきなりつねられて、絶叫してしまった。
頭が「????」となっている私に、A子ちゃんのお母さんはにっこり笑った。
急にそんな事を思い出したのは、つい先日、子供を連れて実家に帰った時、
同じように子供を連れているA子ちゃんを見かけたからだ。
母に聞いたら、A子ちゃんはまだそこに住んでいるという。
喧しい我が家と違い、相変わらずA子ちゃん一家は静かだった。
A子ちゃんが、自分がされたのと同じように、子供をつねっているかは知らない。
静かに笑いながら友達や、年下の子供や、わが子をつねっている一家は
不気味に心に深く残った。
思わずそう考えてしまった。