2009-10-25

静かなる一家

小学校の頃、2,3ブロックごとに「分団」というのがあって、

そのグループごとに登校していた。

団長は6年生がやって、下の学年の面倒をみつつ、

二列を保持して学校まで登校する。

私は面倒見がいいわけでもなかったけど、生憎6年生が私しかいなかったから

分団の分団長をやっていた。

思い返せば、「長」なんてつく役柄があったのは、その時だけだった気がする。

そこには、4年生のA子ちゃんと、2年生になる私の妹。

そして、同じ場所に集まる男の子の分団にはAちゃんの弟で3年生のB君がいた。

ある日、A子ちゃんと、同じ学年のC子ちゃんが喧嘩になった。

喧嘩といっても、C子ちゃんが一方的に怒ってて、泣いていて、あまり喧嘩らしい喧嘩にはなってない。

4年生は人数が多くて、C子ちゃん以外はみんなA子ちゃんの味方、という感じだった。

A子ちゃんは静かで、言葉は少なかったけど、理論整然と話す子だった。

怒り心頭!という感じのC子ちゃんとでは収まりがつかない。

その日はC子ちゃんを先頭の私の隣に、A子ちゃん達を列の最後尾に並ばせて登校した。

C子ちゃんが不満そうに腕をさすっていたので

「どうしたの?」

と聞いたら、

「A子ちゃんがつねった」

と腕を見せてくれた。

小さな傷だったけど、赤く爪の跡が食い込んで、皮がめくれていた。

C子ちゃんはそれっきり、A子ちゃんや他の子と距離を置いていたので、喧嘩が起る事もなかったので、しばらく忘れていたのだけど、今度は私の妹がB君にいじめられた、と泣きついてきた。

薄情かもしれないけど、前は2つしか歳の違わない同性の話で、今度は自分の小さな妹だし、相手は(年下とはいえ)男だし、これはイカンと思って、B君に抗議した。

しかも、妹の手にはC子ちゃんと同じつねった跡がくっきり残っていた。

姉のA子ちゃんと違い、B君は本当に何も話せない子だった。

その時もウンともスンとも言わないまま、登校時間になって結局有耶無耶に終わってしまった。

ところが、数日後、家に帰るとB君がうちに一人で妹と遊びに来てた。

うちの妹はあまり女の子らしくなくて、兄の玩具なんかもあったからかもしれない。(実際男の子の友達が多かった)

気がよいのかすっかり忘れたか、妹は普通にB君と遊んでいた。

少し遊んだ後、B君が急に妹をいじめた事を詫び始めた。

その時に聞いた話が

・姉のA子にいつもいじめられている

・姉と母親は虐める時や怒る時に、いつも何も言わず自分をつねる

・姉は勉強運動もできて、自分はかなわないし、やりかえせない。怖くて、やりかえすなんて考えれな

・妹は姉のA子に似ている

どうやら鬱憤晴らしに私の妹をいじめて、つねったらしかった。

B君はその話を私と妹の前で悪びれもせずにした。

流石に妹もその話に嫌な気がしたらしく、(今でも覚えてるらしい)

その後も何度かB君はうちに遊びに来たけど

近づけないように避けたようだった。

それから、数年たって、母が子供会か、婦人会かなにかの役員になって、

近所の催し物の手伝いに駆り出された。

私は中学2年生になってた。

講堂を飾り付ける飾りを作る係の中に、A子ちゃんのお母さんがいた。

A子ちゃんのお母さんの顔は知っていたけど、話すのはそれが初めてだった。

飾りを作りながら、お母さんからA子ちゃんが小学校で何かの代表に選ばれた、と聞いた。

A子ちゃんしっかりしてますからね、と言ったら(正直お世辞だ)ものすごくうれしそうに、

静かに、A子ちゃんを延々ほめ始めた。

「あなたも大きな声で笑ったりしないで品性を持った方がいい」

「A子はお花をやっているから、品がある。あなたもやればいい」

ちょっとなぁ、と思い始めたらこんなことまで言いだした。

「A子が代表になれたのは、親がちゃんとしてるからよ?

あなたのお母さん、先生にご挨拶も持っていかないでしょ?

それじゃあ、ねぇ…」

「徳がないと、だめ。

あなたは毎日お勤めしてる?ご先祖様をうやまう気持ちがないと、自分の身に降りかかるんだから」

新興宗教らしい)

子供心に逃げ出したい!と思い、何か話題を変えるきっかけがないかと思っていたら、

A子ちゃんのお母さんが飾りを間違えて作ってることに気付いた。

「あ、それ、間違ってますよ~」

と、言った時A子ちゃんのお母さんは

「あら、いやだわ」

と、明るく言った。

けど、目が笑ってなかった。

そして、言うのと同時に、私の腕を思いっきりつねりあげていた。

「いたい!!!」

免疫のない私は、いきなりつねられて、絶叫してしまった。

頭が「????」となっている私に、A子ちゃんのお母さんはにっこり笑った。

子供が大人に口答えするもんじゃないのよ」



急にそんな事を思い出したのは、つい先日、子供を連れて実家に帰った時、

同じように子供を連れているA子ちゃんを見かけたからだ。

母に聞いたら、A子ちゃんはまだそこに住んでいるという。

子供自分子供と同じくらいの年齢に見えた。

喧しい我が家と違い、相変わらずA子ちゃん一家は静かだった。

A子ちゃんが、自分がされたのと同じように、子供をつねっているかは知らない。

静かに笑いながら友達や、年下の子供や、わが子をつねっている一家は

不気味に心に深く残った。

A子ちゃんの子供と一緒の学校にならなくて良かった。

思わずそう考えてしまった。

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