2009-07-02

酔歩する彼女

1、2ヶ月に1度という頻度でサシ飲みする女友達がいる。

僕は日常的にはお酒を飲まないのだが、彼女はかなり頻繁に飲む人。

「『酒は飲んでも飲まれるな』って言いますよね」と言うと、「でも『飲んで飲まれて飲まれて飲んで』とも言いますよ」と返してくる、晩酌当たり前というお酒好き。

双方の趣味嗜好に重なる部分が多く、いつも終電間際まで飲みながら楽しく話し込んでしまう。

先日いつものように2人で飲んでいたら、彼女ビール5、6杯で酔い潰れてしまった。

それまでの経験から、まさか彼女ビールだけで潰れるとは思わなかったので驚いた(後で聞くと彼女自身も驚いたらしい)。

予想外の酔い方をしたのは、若干の体調不良と睡眠不足からくるものだろうというのが彼女の弁。

ビール2杯とサワー1杯しか飲んでなかった僕は早々に酔いが醒め、しばらく休ませれば大丈夫だろうと、テーブルに突っ伏したままの彼女ファストフード店で雑談しながら休憩していた。

しかし終電間際になっていざ駅へ向かおうとすると、20mも歩かないうちにビルの壁に手をついてうつむき立ち止まってしまう彼女

こりゃ結構酔ってるなーと思いながら、とりあえず彼女背中をさすってみる。

「このまま電車に乗ったら降りる駅で乗り過ごすかもしれません」

「それに気持ち悪くなって途中の駅で降りたら、終電後に立ち往生しちゃいそうです。だから私はここ(繁華街)で一晩過ごすので、先に帰って下さい」

というようなことを言われ、酔っているが状況分析はできているなと思った。が、素直に帰るわけにはいかない。

大丈夫ですから、もう帰って下さい」と必死に何度も乞われる。

うつむいて相手にもたれかかりながら言う台詞じゃないですよ、それ。

「もう大人ですし、限界まで酔っているわけではないので、独りでも何とかなりますから」

確かに大人だが、酔った友人(しかも女性)を置いて帰るというのは、人としてどうかと思いますよ。

「ひどい状態に見えているかもしれませんけど、それは人が一緒だと甘えてしまうからで、独りになれば気が張るので大丈夫です」

説得力ゼロです。本当に大丈夫な人は「大丈夫」とは言いませんよ。

「じゃ、とりあえず駅に行きましょう」

そう言って歩き出した彼女が、足元をふらつかせてよろめいた。危なっかしくて見ていられないので、有無を言わさず僕の腕を掴ませる。と、しがみついてきた。

ああ、こりゃだめだ。とても独りにできる状態じゃない。

この時点で帰る気が完全に失せた。

走ればまだ終電に間に合ったとは思うのだが、駅に着いても僕が帰る様子がないのを察すると彼女観念したらしい。近くの店を探して入ろうということになった。

駅を出ようとすると本格的に雨が降り始めていたので、傘を差し彼女を入れる。

お酒を飲む人間として、飲まない人間の前では潰れないようにしようって思ってたんですよ」

僕と腕を組んでしがみついて歩きながら話す彼女

「誰しも他人にいいところを見せたいっていう思いがあるじゃないですか。こういう姿は見せたくないんですよ」

それは分かりますが、貴重な姿なので見ていて面白いです。

「一応、酒飲みとしてのプライドもあるんです」

そんなものは犬にでも食わせろと思います。

「でも、これで酔っ払いを介抱する貴重な経験ができましたね」

まったくです。

「隣にいるのが別の可愛い女の子だったら『ウフフ』な展開で良かったんでしょうけど。……なんかオヤジですね」

ねーよ、と思った。そもそも一緒に飲むような女性なんてあなたしかいませんから。おそらく今後も。

「本当にすいません……」

今回、彼女の口から「すいません」という言葉を50回くらいは聞いた気がする。

結局、iタウンページから探して見つけた近くのネットカフェで一夜を過ごすことに。

寝やすいようにフラットタイプのブースへ彼女を入れ、温かいお茶を渡すと、僕はリクライニングチェアのブースに入った。

空調が少し涼しかったので、受付で借りたブランケット彼女に渡そうと思い、ノックしてブースの扉を開けると既に素足を放り出して寝入っていた。

見たところ特に異常もないようなので、広げたブランケット彼女にかけるとすぐ自室に戻り、原哲夫花の慶次 ―雲のかなたに―』を読みふけった。実に面白い。

いつしか寝入っていたらしい。ふと早朝に目覚めてから、ぼーっと色々なことを思い返していた。

そこで、女性と腕を組んだのは人生で初めてだということに気付く。もしかすると女性との相合傘も初めてかもしれない。

そういえば意識的に女性の肌に触れたのすら何年ぶりだろうか。だから何だと言うわけでもないのだが。

余裕がないと、あまり考えずに行動してしまうものなのだなと。

「がっつり寝てしまいました」と寝起きの彼女。それはよかった。

何だかんだで、別れたのは昼も過ぎた頃だった。

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