1限後の休み時間だ。涼宮山は早々と教室を出て行ったが、まあ別に不思議ではあるまい。
奴だってきっと多分おそらくあるいは人間であるという可能性が無きにしも非ずだ。用足しもするだろうさ。
ここでひとつ下らない思考をするとすれば、あの体格でいわゆる個室に入ることははたして可能なのだろうかいや間違いなく入れないだろうなあ首尾よくそこに入ることができたとしてもみつしりと御筥様でにつこりと笑うどころか射抜くような眼で「ほう」だよないやむしろ勝ち気な奴のことだ「このお」かもしれないそれはかなりホラーだな誰も助けてくれなさそうで何だか酷く女が可哀想になつてしまつた。嗚呼涼宮山君、この世には不思議な事しかないんだなあ。
「おいキョン! お前どんな魔法を使ったんだ!? いや魔法じゃなくあれか、食い物か? 何を食わせた、学食で一番高いやつをおごったか?ジャンボ日替わり定食か!?」
「……何の話だ」
よくわからないがいきなりやってきてその言い草は失礼だぞ谷口。俺はアレか、有望なアスリートに向かって札束満載の財布を渡すプロレスラーか?
「いやいやいや、何の話も何も涼宮山だよ涼宮山。俺、アイツがあんなに長いこと喋ってるの始めて見るぞ? ……お前一体何をした?」
さて、なんだろう。とりあえず食べ物で釣ったわけではもちろんないし、喋ったといっても適当なことしか訊いていない気がするんだが。
「驚天動地だ……!」
お前な。
「昔っからキョンは、変な女が好きだからねー」
話に入ってきた早々、なんという酷いことを口走りやがるのかこの国木田は。
「……誤解を招くようなことを言うな!」
「オイも聞きたいでごわすなぁ~」
背後からいきなりかけられる野太い声に驚き、後ろを振り返ってみると、白い物体がそこにあった。なんだこりゃ、ぬり壁か?
「オイが話しかけてもなぁんにも答えてくれない涼宮山関が、どうしたら話すようになるのか――」
話を耳に入れつつパン・アップ。声の主は朝倉川だった。先ほどの白い壁は、制服に覆われた見事な腹だったようだ。
「――わからん」
「ふぅむ? ……でも安心したでごわす、涼宮山関、いつまでも部屋(クラス)で孤立したままでは困るでごわすからのぉ。
1人でも友達ができたのはいい事でごわすものなぁ」
「……友達ねぇ」
ちっくしょぉコノヤロウ今朝も可哀想ビームを送ってきたくせに何を言い出しやがりますかこの娘は。黒い! この娘は黒ぅ御座います!
「その調子で、涼宮山関を部屋(クラス)にとけこめるようにしてあげて欲しいでごんす。
せっかく一緒の部屋(クラス)に入ったんでごわすから、皆仲良ぅしたいもんどすこい。宜しくお頼み申す」
と、言われてもなぁ……。
「これから、何か伝えることがあったらおんしから涼宮山関に伝えてもらうことにするでごわすよ」
…………ちょ待っ!?
「待て待て待て! 俺はアイツの親方でもなんでもないぞ!!」
「お・ね・が・い☆」
ええいそんな野太い声で乙女チックに頼むなその体型で手を合わせられると最早七福神的なアレにしか見えんからさ寧ろお前もう黙れ喋るな。
つまり、朝倉川が言いたいのは、
「涼宮山と関わるなんてやっかいだから何かちょくちょく話しかけてる変人クラスメイトのあなたに押し付けちゃっていいかしら? あ、拒否権は認めないから☆」
ということだ。朝倉川の腹黒さに戦慄せざるを得ない。この歳でこれだけのしたたかさ……。臭い飯の厄介にだけはなってほしくないものである。