長いです。
昨夜、何となくテレビをつけていると『リセット』というドラマが始まった。
たいして面白い内容のドラマではなかったけど、片手間に最後まで見た。
今朝、早く出社して片付けたいことがあり、いつもよりもずいぶん早い電車に乗った。
けれどこの混雑具合。かばんが当たって揺れているのかもしれない。
「ポケットに、他の人の手が入ってる?」手の動きは少しずつ大きくなり、確信した。
痴漢だ。
学生のころから、電車で痴漢に遭ったり、道でいたずらされそうになったりということは、たびたびあった。
私は大人しそうな外見なので、標的にされやすいのではないかと思う。(ハチクロでいうところのコロボックル系だと言われる)
そんなとき、どうすればいいのかわからない、恥ずかしいという気持ちがあって、いつも何もできずに悔しい思いをしていた。
「悔しい」というのは「体を触られること」に対する悔しさではない。
「大人しくて抵抗し無さそうに見える」から体を触られるんだと考えると悔しい。
この、おぼこい顔が駄目なんだ。ほわほわした空気が駄目なんだ。小さい体が駄目なんだ。"安全な女の子"に見えるんだと。
一番駄目なのは、実際に抵抗しないことで本当の"安全な女の子"になってしまっていることだ。
それでも、どんなに"安全そうな女の子"を狙っても、万一"安全ではない女の子"だったら…という恐れを抱いているためなのか、その手口は"控えめ"だった。
変な話だけれど、私はそれに救われていた。
「どんなに安全そうに見えても、万に一つ、安全ではない可能性をこの痴漢は恐れている。私は完全に舐められているわけではない」変に前向きな考えを展開し、都合よく自分のプライドを守っていた。
けれど、今朝の痴漢は堂々としたものだった。
私のおしりで、おっさんとおっさんの手は大変なことになっている。スカートじゃなくて良かった。
「この人は、私のことを"絶対に安全な女の子"だと確信しているのだろうか。私が"安全な女の子"でなかった場合のことを恐れないのだろうか」
悔しい。今まで遭った痴漢の中で一番、悔しい。
自分史上最高の悔しさと、昨夜のドラマの影響とが絡み合い、高まり「今日の自分なら、キレることができる」という気がした。
できる。キレる。おっさんの手を掴む。振り返り、睨みつけ、やめてくださいと大きな声で言う。
このおっさんは調子をこきすぎたのだ。やってやる。
しゅるしゅると、気持ちがしぼんだ。
そうだった。今朝は頑張って早起きしたのだった。
警察沙汰になれば、会社へ行けなくなるのではないだろうか…せっかく、早起きしたのに。
隣のおばちゃん2人組は資格試験を受けるらしく、試験場へのルートを何度も確認し合っている。
みんな急いでいる。
なんとなく「声を出せば、みんな助けてくれる。私は被害者なんだから」と考えてしまったけれど、私が急いでいるように、他の人も急いでいる。きっと誰もたすけてくれない。やってみなければわからないけれど、だめだ、こわい。
「この女は安全だ」おっさんとおっさんの手はそういってたのしんでいる。
吊革をぎゅっと握った。
痴漢冤罪からの自衛も、安全なオヤジと思われないことがポイントか。
そう。 外見で舐められないこと! 痴漢されるひとも、痴漢しない人も。 かといって、いかつい顔の女にはなりたくないけど。 加減が難しい。