2009-01-23

安全な女の子

長いです。

昨夜、何となくテレビをつけていると『リセット』というドラマが始まった。

一話完結で、昨夜の回は痴漢を捕まえたOLの話。

たいして面白い内容のドラマではなかったけど、片手間に最後まで見た。

今朝、早く出社して片付けたいことがあり、いつもよりもずいぶん早い電車に乗った。

電車に揺られる中、ジーパンの後ろポケットに違和感を感じた。

けれどこの混雑具合。かばんが当たって揺れているのかもしれない。

「ポケットに、他の人の手が入ってる?」手の動きは少しずつ大きくなり、確信した。

痴漢だ。

学生のころから、電車痴漢に遭ったり、道でいたずらされそうになったりということは、たびたびあった。

私は大人しそうな外見なので、標的にされやすいのではないかと思う。(ハチクロでいうところのコロボックル系だと言われる)

そんなとき、どうすればいいのかわからない、恥ずかしいという気持ちがあって、いつも何もできずに悔しい思いをしていた。

「悔しい」というのは「体を触られること」に対する悔しさではない。

「大人しくて抵抗し無さそうに見える」から体を触られるんだと考えると悔しい。

この、おぼこい顔が駄目なんだ。ほわほわした空気が駄目なんだ。小さい体が駄目なんだ。"安全な女の子"に見えるんだと。

一番駄目なのは、実際に抵抗しないことで本当の"安全な女の子"になってしまっていることだ。

それでも、どんなに"安全そうな女の子"を狙っても、万一"安全ではない女の子"だったら…という恐れを抱いているためなのか、その手口は"控えめ"だった。

変な話だけれど、私はそれに救われていた。

「どんなに安全そうに見えても、万に一つ、安全ではない可能性をこの痴漢は恐れている。私は完全に舐められているわけではない」変に前向きな考えを展開し、都合よく自分プライドを守っていた。

けれど、今朝の痴漢は堂々としたものだった。

私のおしりで、おっさんとおっさんの手は大変なことになっている。スカートじゃなくて良かった。

「この人は、私のことを"絶対に安全な女の子"だと確信しているのだろうか。私が"安全な女の子"でなかった場合のことを恐れないのだろうか」

悔しい。今まで遭った痴漢の中で一番、悔しい。

自分史上最高の悔しさと、昨夜のドラマの影響とが絡み合い、高まり「今日自分なら、キレることができる」という気がした。

できる。キレる。おっさんの手を掴む。振り返り、睨みつけ、やめてくださいと大きな声で言う。

このおっさんは調子をこきすぎたのだ。やってやる。

しゅるしゅると、気持ちがしぼんだ。

そうだった。今朝は頑張って早起きしたのだった。

警察沙汰になれば、会社へ行けなくなるのではないだろうか…せっかく、早起きしたのに。

隣のおばちゃん2人組は資格試験を受けるらしく、試験場へのルートを何度も確認し合っている。

みんな急いでいる。

私には、ひとりで痴漢を捕まえる勇気が無かった。

なんとなく「声を出せば、みんな助けてくれる。私は被害者なんだから」と考えてしまったけれど、私が急いでいるように、他の人も急いでいる。きっと誰もたすけてくれない。やってみなければわからないけれど、だめだ、こわい。

「この女は安全だ」おっさんとおっさんの手はそういってたのしんでいる。

吊革をぎゅっと握った。

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