【うつ病で大人になる?】
私は、気が小さい一方で傲慢なところが多々ある少年だった。
スポーツ好きな私は、将来は水泳か野球の選手にでもなれたらいいなと無謀なことを考えていた。
特に水泳は負けたことがないので、多少野望はふくらんでいたのだった。
中学に上がると、他の小学校からの生徒もいて、その中で「俺の学校ではいちばん速かった」と言われる生徒と競争することになった。
私は、じゃあその天狗の鼻を折ってやろうとほくそ笑んでいたのだが、何と25メートルで5メートルくらい引き離されてしまった。
それはもう言い訳のしようもない大差である。水泳選手になりたいという夢など、一瞬にして消し飛んでしまった。
ただし、これくらい負けるとスッキリするもので、世の中には自分よりすごい奴なんていくらでもいると悟った私である。
それは水泳だけではなく、自分など大したものじゃないということがわかり、ちょっとは謙虚になれたのである。
ほとんどの人は、そういう苦い思いを味わいつつ、大人になっていくものではないかと思う。
しかし、中には例外もある。もう50歳になりかかっている休職中のCさんがそういう人だった。
「僕はですねぇ、ついこの間までは自分に限界などないんだと思っていました」
これを聴いてまず驚いた。確かに本来は自信満々な感じである。
実際バリバリの営業マンとして活躍、出世コースにも乗り、順風なサラリーマン生活を送ってきた。
ところが、ひとつの仕事の失敗が彼の人生を変えた。以来彼は、憂うつな気分となり、欠勤が目立つようになった。
朝どうしても体が動かないという日が続き、ついに休職となったのである。
不満の間には後輩達が彼を追い抜いていた。
「幸い面倒見が良かったほうなので、後輩は僕を立ててくれますけど…」
あるときCさんは、自分を一から指導してくれたかつての先輩を訪ねた。
その方もまたバリバリの営業マンだったが、10年以上前に思い立って脱サラをし、田舎暮らしをしている人だった。
うつ病になってしまったという話をすると、先輩はこともなげにこう言ったという。
「うつ病っていうのはね、日本のサラリーマンが大人になるための通過儀礼なんだよね。俺なんか、2,3回やったよ。
これでお前も大人の仲間入りだな」
なるほど、これは名言かもしれない。Cさんは何だか気持ちが楽になり、これからは後輩達のためにがんばろうという気持ちになったのである。
<見方を変える味方の言葉>
それを乗り越えて人は大人になっていく。
まとめ